新宮一成著

無意識の病理学
クラインとラカン

A5判 232頁 定価(本体3,600円+税) 1989年10月刊


ISBN978-4-7724-0322-1

 ラカンの病理学は,いかにしたら日本の臨床に結びつけることが可能であろうか。
 研究対象として分裂病の精神病理を選んでいる著者は,まず家族研究の方法論と分裂病の転移を,1,2章で吟味する。
 3章では「メランコリー」の概念を,母子一体を希求しつづけた境界例の男子大学生の心的構造と結びつけ,ラカンの「寸断された身体」を見出す。この「寸断された身体」が4章では,緊張型分裂病をめぐってラカンとクラインの理論との関連で追究される。
 また5章では,神経症と分裂病の言語に「死の欲動」と「主体」の問題をさぐる。
掉尾を飾る60頁に及ぶ「ラカンの基本理念をめぐる省察」は,「シニフィアン」「象徴界」「自己意識」「他者」「対象」についての批判的啓蒙的紹介の章である。
 以上に見てきたように,本書ではさまざまな病型へのラカン的接近が試みられており,ラカン流精神科臨床の本邦初の指針の書となっている。

主な目次

    第一章 ダブル・バインドとパラドックス―精神分裂病の家族研究に関する方法論的展望―

      Ⅰ 序論
      Ⅱ 内面化された家族関係
      Ⅲ 家族内対人関係の研究
      Ⅳ 結び

    第二章 分裂病者の「虚像転移」―ヒステリー性精神病者との対比において―

      Ⅰ 序説―転移について
      Ⅱ 症例
      Ⅲ 『結婚』という問題領域の構成のされ方の相違―分裂病とヒステリー
      Ⅳ 『結婚』というシニフィアン
      Ⅴ 「虚像転移」とその周辺
      Ⅵ 結語

    第三章 メランコリーと故郷喪失の幻想―「浄土幻想」から「日常」まで

      Ⅰ 序論
      Ⅱ 症例
      Ⅲ 診断について―とくに「日常の欠如」をめぐって―
      Ⅳ 本症例の苦しみの構造について
      Ⅴ この苦しみの構造をメランコリーと呼ぶことについて

    第四章 「寸断された身体」の体験について

      Ⅰ 「寸断された身体」の射程
      Ⅱ 周期性緊張病の一女性例
      Ⅲ 「寸断された身体」と「ファルスの意味作用」
      Ⅳ 「開口部(ベアンス)」の考え方から見た「寸断された身体」
      Ⅴ 要約

    第五章 精神分裂病者の死生観

      Ⅰ 序論
      Ⅱ 精神分析における死の知
      Ⅲ 死の知の原因としての言語活動
      Ⅳ 死体と文字―存在と言語のイマージュ
      Ⅴ 在と不在の交代
      Ⅵ 精神分裂病における死の知

    第六章 ラカンの基本理念をめぐる省察

      Ⅰ 生の根拠としての言語と自然
      Ⅱ 精神分析における無意味のシニフィアンの機能
      Ⅲ シニフィアン私論
      Ⅳ 象徴界私論
      Ⅴ 自己意識
      Ⅵ 他者
      Ⅶ 対象
      Ⅷ 時間