あとがき

 今日の心理療法の世界はより短期の効果的,効率的な治療を求めていま。特に,アメリカにおいて,保険会社と契約しているセラピストは,クライエントの問題の性質や種類に応じて治療回数が規定されるという状況下におかれ,できるだけ短期間の治療を余儀なくされています。また,本来は,ボランタリーであるべきクライエントとその家族の治療が裁判所の権限でなされるという新たな状況にセラピストは直面しています。これらの状況に対応するために,セラピストには絶えず革新的な治療法が求められています。つまり,従来までの心理療法とは異なる新しいスタイルの治療法が求められているといっても良いでしょう。その方法の一つがミルトン・エリクソンから発展したブリーフ・セラピーであると思います。
 最近,アメリカを中心として,治療学派を超えた効果的な治療法に関する国際会議が行われています。1988年には,エリクソン財団が主催して,「ブリーフセラピー」をテーマとする第4回国際エリクソン会議開催されています。このような効果的な治療法の模索の動きに促されて,短期治療に関する世界で初めての研究団体,ブリーフサイコセラピー研究会が,1991年5月にわが国において発足しています。また,その2年後の1993年の4月30日には,第16回ルイジアナ夫婦・家族療法学会の期間中,国際ブリーフセラピー学会を組織する会合が開かれ,正式に国際ブリーフセラピー学会(IBTA)が発足しました。このルイジアナの学会はブリーフセラピーで有名なメンタル・リサーチ・インスティチュート(MRI)のジョン・ウィークランド氏の功績をたたえる機会でもありました。この記念すべき学会に学会長のウェンドル・レイ博士から招待された編者は,新しい国際ブリーフセラピー学会の設立を目の当たりにして,心理療法における新しい歴史の胎動を実感できました。IBTAはブリーフ・ファミリー・セラピー・センター(BFTC)のインスー・キム・バーグとスティーブ・ドゥ・シェイザーが中心になっており,今後の動向が注目されます。
 本書では,数多くのブリーフサイコセラピーの中でも特に,エリクソンの催眠・心理療法から発展し問題解決の独自のアプローチを展開している治療モデルをブリーフセラピーとして取り上げます。それゆえ,エリクソンに関連する治療モデルが取り上げられ,各モデルの理論とケースが述べられています。また,ブリーフセラピーと企業や演劇との関連性についても言及されています。本書を通して,わが国における,ブリーフセラピーの現状が理解されると思います。今後のブリーフセラピーの発展を期待しつつ,その案内役として本書が利用されれば幸いです。