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「あとがき」より

 この15年近くのあいだに書かせていただいたもののいくつかを選んで,このようなかたちで一冊の本にした。そのほとんどが査読を経ていない依頼された原稿である。したがって不特定の厳格な査読者相手に新しい知見としての趣旨を伝えようとする文章ではなく,わたくしの目の前にいてケースを抱えて四苦八苦している治療者に,わたくしの考えなり経験が多少とも役に立てばというスタンスで書いたものが大半である。編集の際に「わたくし」を「筆者」に統一してはという迷いが生じたが,読者とのこの私的なスタンスを大事にしたい気持ちから,すべて初出のままの記載で通した。このことは,わたくしなりの心理療法を人に伝えるという点では良かったと思う。しかし一方で,査読を経ていない後ろめたさもついてまわる。「論文」といいながら「ぺーパー」と書き改めたくなるのもその気持ちのあらわれであろう。先行研究,仮説,実地そして結論といった,いわゆる学術論文としての体裁がない。第Ⅱ部第3章がややそれに近いが充分ではない。そういう意味では自信を持てる論文がないのである。
 しかし,この本の中の何編かは毎年開いている家族療法の講座の参考資料にしているのだが,そこでの反応は悪くないと思っている。逆にわたくしの論文のいくつかを読んだので講座に参加してくれている人たちもいる。こうした意味では「役に立っている」のかもしれないと思うことにした。「ペーパー」でも「論文」でも「役に立てば」どちらでもよいことにした。また半年間かけての講座や,スモール・グループ・スーパービジョンでの質疑応答が,自分自身がやっていることを明確にする上でおおいに役だった。比較的短時間で一編を書き上げられているのは,いままでのそして現在の参加者の方たちとのやりとりのおかげである。感謝したい。
 8年前に心理療法の専門家として本格的に開業してから,今言った「役に立つ」かどうか識別することがとりわけ重要になってきた。家族療法に関してもはじめはみようみまねではじめたものだが,開業してから「役に立つ」ことをこれほど感じたものはない。個人療法よりも適用範囲が広く,治療効果もより現実的に家族員とわかちあえるすこぶる使い勝手の良い治療概念である。本書がこうした実践を読者に伝えるものであってほしい。しかし同時に個人療法の持ち味も大事にしたい気持ちもますます強まっているのも事実である。
 下坂幸三先生のところでの症例検討会や折々の勉強会は,長年に渡りわたくしにとってのまさに臨床の素地となっている。先生からは臨床の現実から目を逸らさずに考案することを学んでいる。先生はその姿勢を主にジィークムント・フロイトから学んだと思われるが,わたくしは下坂先生から学んだ。開業というなりわいからすると「盗んだ」といった方が正しい。その先生から本書の序文をいただけたことはこの上ない光栄であると同時に,ますます申し訳ない気持ちにもなる。「恩を返す」のは苦手だが,わたくしの臨床を盗む方がこれからあらわれてくれれば少しは気が楽になるかもしれない。
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