「序論」より(抜粋)

 自閉症は児童精神医学のいう発達障害の一つであることを否定する者はいない。これが学術誌に記載されてから半世紀を過ぎた。その間,さまざまな領域から‘自閉症の治療’というものが提起された。それは何がしかの成功を収めているようだった。しかし,やや長期のスパンでみると,問題は解決していないことがわかる。幼稚園でうまく言った対応が小学校時代にそのまま通用するものではないし,小学校時代に成功した方策の多くは思春期になると破綻するのが普通である。これは高機能自閉症といわれる,高校・大学と進学し,就職できたケースについてもそうで,職業生活で何度となく危機的状況に陥ったさいに判明する。これは自閉症の治療のモデルが大きく瓦解したことを示すものであろう。自閉症治療は根幹から問い直さねばならなかった。
  ……
 自閉症は長期にわたって持続する障害である。自閉症の治療について2つのことが言える。1つは治療サービスの観点から,各年代で起こりうる由来する不利益を最小限にするためのケアが必要なこと,第2は治療教育に関して,それぞれの年代でも最大の教育効果が発揮できるための準備がされていなければならない。したがって,各年代の治療目標は,いかにしたらつぎの年代の教育がしやすくなるかを目標に進められねばならないことである。それが幼稚園であれば,入学後,担任の指示にしたがった行動ができ,あるいは担任の教示に従って学習できるためにどのような態度と行動パターンを形成させていくかが課題となり,同様に小学生であれば,思春期以降,どのようなスキルが要請されるかをそれぞれのレベルに合わせて勘案し,どのようなことを身につけさせるかが基本方針とならねばならない。成人期以降であれば,発達の促進ではなく,本人の生活の質の向上という視点が大切である。こうした自閉症治療の理念にしたがっての具体的対応が本書に記されていることを強調しておきたい。