もどる

「訳者あとがき」より

 本書を手にしたのは,カナダのモントリオールで開催された第11回国際集団精神療法学会の時である。……ざっと読んでみたところ,サイコドラマを他の精神療法との関連の中で,手際よく整理しまとめてあるのに感心し,翻訳をしてみることになったのである。本書の序文に,モレノの息子のジョナサン・モレノが述べているように,サイコドラマティストの多くのものは,論文を書くより,ひたすら実践するほうを好むと見えて,良い論文,特に他の精神療法の理論をも取り入れた本格的な論文が少ないなかにあって,本書は貴重な文献であるように思えたからである。本書の日本語版の序文で彼が述べているように,すでに,いくつかの国に翻訳されているということからも,本書の価値がうかがえるように思われる。
 本書は,定義,理論から始まり,14章に分かれている。「アクション洞察」「テレ」「アズ・イフ」といったサイコドラマに特有な治療的要素もあるが,定義にしろ,治療的側面にしろ,臨床に即して書かれているので,わかりやすいし,納得できるものがある。臨床例がいくつか具体的に出てくるが,それらのセッションも,特に劇的な展開を見せた特別なケースというわけでもなく,誰でも体験し理解できる内容で,抵抗なく受け入れられるだろう。引用している文献は多様で,ジェイコブおよびザーカの両モレノは当然として,スタニスラフスキーからイングマール・ベルイマンのような演劇畑の人,ミードなどの社会学者,フロイト,ヤロムなどの他学派の精神療法家,そして,レオン・ファインやアダム・ブラットナー,ロイツ,キッパーなどわが国でもお馴染みのサイコドラマティストの言葉も多く引用されている。これら引用文献の多さが本書の特徴の一つとも言える。そのなかで,セッションの回数や人数などの具体的な構造についてのこれまでの評価なども教えられることが多い。具体的にワークショップを組む場合にも役立つし,「プロセシング」のように,まだわが国では十分に発展していない領域もあり,監督訓練のためのチェックリストとともに,今後おおいに利用される可能性ももっている。彼が望んでいるように本書を刺激としてサイコドラマの理論についての論争が生じることを期待したい。
 ……聞くところでは,スウェーデン生まれの彼は,13歳の頃から演劇グループの中で活動を行っていたということである。そして,その中で,さまざまな俳優の訓練の方法を試みていたところ,ある人から,それと同じことをザーカ・モレノがやっているから見てくるとよいと教えられ,21歳の時にビーコンにいき,ザーカ・モレノとマリリン・ピッツェルにサイコドラマを学び,1979年にサイコドラマティストとしての資格を取っている。ザーカさんとピッツェル氏がわが国を訪れ,モレノ・ショックを巻きおこし,わが国でも本格的な古典的サイコドラマに取り組むグループが誕生したのが1981年であり,それ以前に筆者が臺氏とともに臨床心理劇協会を組織し,高良氏や磯田氏等が育ってきたことを考えると,やはりこれらの第2世代と同じ時代の人であることを感じる。1998年はその臨床心理劇協会が解散し,3年前に設立された心理劇学会に吸収されることになっているが,その時点で本書が出版されることは一つの歴史を感じさせるものがある。 演劇畑から入っただけあって溝演でも演劇的なパフォーマンスに富み,サービス満点で,飽きさせるところがなかった。現在は,臨床心理士として,イスラエルのホロコーストのサバイバーの治療センターで仕事をする傍ら,スウェーデン,ドイツ,イスラエルでサイコドラマの訓練に取り組んでいるということであった。……
もどる