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「まえがき」より

 本書では,発達臨床心理学の視点,内的対象と超越の世界,心理臨床と宗教,理論や技法を実際の臨床場面に援用する際に,どのような配慮が必要なのか,精神保健と家族,心理臨床と法や制度のかかわりなど,一見,異質な論考が一書に納められているかのごとくであるが,これらの文章の基底に共通して流れる主張は次のようなことである。
 心理臨床とは,その個人がより生きやすくなることを,心理学の理論に基づいた技法を用いて援助していくことである。まず個人の自尊心を重んじ,人として遇する姿勢を基盤に,そして,緻密な観察眼を働かせ,潜んだ可能性に気付くようでありたい。理論や技法の定石を知悉して,それを目前の個人に即応するよう工夫して,しかもできるだけ自然に用いること。さまざまなことに開かれていて,クライエントの資質や周りの資源の力を活かしていく方向性をとりたい。感性と観察力,思考力のバランスの維持,焦点を絞って働きかけつつ,全体状況,つまり時間的・社会的・文化的文脈へ配慮するセンス。これらのことは心理臨床の営みのあらゆる場合に求められる。心理臨床家は,さりげなく自分の座標軸をもち,多軸で観察思考したい。……
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