「はじめに」より抜粋

 本書は,私とジェイ・ヘイリーJay Haleyとの一連の会話から成り立っている。会話には,ケース紹介の全体像の部分とコンサルテーションconsultationからの抜粋部分とが含まれている。いくつかのケースが本書のために選ばれたのは理由がある。それは,議論された家族の特徴や介入の方法が興味深いものだからである。しかしそれ以上に重要なことは,精神保健にかかわるいかなる機関mental health centersにもきまって見られるような諸問題を,これらのケースが代表しているからである。それらの問題の多くは,たいへん重篤で慢性病と言えるようなものばかりで,家族は崩壊の脅威にさらされ,裁判所や保護施設protective servicesなどの機関がすでに彼らとかかわっていることも少なくない。これらのケースの多くは,治療者を無力感でいっぱいにしてしまうような典型的な問題を呈している。このような困難な状況をどう扱うかについて,本書ではさまざまな着想ideasが提案されている。
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 コンサルテーションの目的は,議論の的になっている家族や問題に応じた戦略を工夫することであった。それゆえ,本書の意図は,さまざまな問題を扱うとともに,環境条件に制約のある治療場面にも適用可能な実際的な道具を実例として示すことである。本書の中で概観する治療手続きの多くはいろいろなところで議論されるが,その本質は,ヘイリーと私の共有する治療方法が用いられ,それらの着想が具体的にどのようなケースに適用されるのかというときに一段と明らかとなる。本書に見られる着想の多くは,読書や経験によってもたらされたり,文献やワークショップを通しさまざまな考えを提供してくれた各機関の治療者たちから得たものでもある,と認識している。
 ここでの会話の目的は具体的なケースについて討議することであるが,読者は,ケースがどのようにとり扱われるか,その方法が明確になる過程を通じて,理論的核心を見出すことであろう。また,会話はスーパーヴィジョンの特殊なモデル例としても役立つ。さまざまな治療方法について話し合う機会を得たことは,当該の特定の問題に限らないディスカッションへと発展することとなった。
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デイビット・グローブ


 本書の大部分は,困難ケースについての会話である。この会話の目的は,いろいろな問題や用いられそうな介入方法に関する考え方を提供することである。私は,どのようなことが実行可能であるかについてさまざまな提案を行っているが,グローブ氏は,家族のセラピーに私のそうした考えを採用してもよいし,あるいは採用しなくてもよい。この種のケース討議に関していえば,コンサルテーションというのはケースの成り行きに責任を負うものではない。……もし,セラピストとコンサルタントとが共通の言語を分かち,同種のアプローチによってケースへのとり組み方を考えるとすれば,コンサルテーションは有益である。まさにそれがここにある。デイビット・グローブは,セラピストとして,スーパーヴァイザーとして,数年間私の訓練を受けてきたからである。
 ここでは,戦略的アプローチstrategic approachの標準的な手続きについて取り立てて述べられていないことに,読者の中には少々戸惑いを感じる方もおられることであろう。というのも,グローブ氏は,ケース討議に入る前からすでに戦略的アプローチに沿ったケースの進行を行っていることがしばしばあるからである。標準的な手続きでは歯が立たなかったことから,彼は,家族の問題をどう考え,どう介入するのかに関し,新しい方法を模索していた。このようなケースでは,しばしば起こることだが,他の場合なら当たり前のように思いつく着想もつい見落としてしまうことがある。
 読者の方は本書が系統的な訓練の書であると期待してはならない。本書はあくまで,ある具体的な問題に触発され交わされたセラピーについての会話を集めたものである。難解でない実践の書である。
 デイビット・グローブは本書の完成に労をとった。ケースを選択し,それを私に説明し,会話を記録し,無理のない統一した英文に編集し,それにフォローアップの結果を添えた。私は関連があると考えた数々の着想を,とらわれなく思いのまま彼に伝えた。

ジェイ・ヘイリー