西澤 哲著

トラウマの臨床心理学


A5判/240頁/定価(本体3,200円+税) 1999年2月刊


ISBN978-4-7724-0602-4

 阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件を契機にして,わが国においても「トラウマ」という言葉が広く知れ渡るところとなった。しかしその概念を曖昧にしたまま適用が拡大されていった結果,心の傷はすべてトラウマであるといった発想がもたれる結果ともなった。
 本書ではまず,トラウマの「発見」からDSM-Ⅳ成立に至るトラウマ概念の歴史を概観し,PTSDの診断基準を詳細に検討した上で,「トラウマとは何か」という本質的な問いかけにさまざまな角度から接近する。
 そして,トラウマを生じる危険性が非常に高い子どもの虐待について,トラウマという概念を用いた場合に,その心理的,行動的な特徴がどのように理解されうるかを検討する。
 心の傷がいったんトラウマへと発展した時には,自然治癒はほとんど期待できなくなり,トラウマそのものに焦点を当て,トラウマがどのようなプロセスで消化吸収されていくのかという理論的な枠組みをもとに展開される心理療法が必要となる。本書の後半では,トラウマの心理療法の一般的原則を整理し,トラウマを受けた子どもへの心理療法的なアプローチを展開している。
 トラウマという壮大なテーマに果敢に取り組んだ本書は,心理療法の実践にあたるすべての者にとって,トラウマを理解し,その概念を臨床的に活かす上でのひとつのメルクマールを打ち立てている。

おもな目次

      はじめに

    第Ⅰ部 トラウマとは何か――トラウマ概念の理論的整理

      第1章 トラウマ概念に関する歴史的概観
        1 トラウマの発見
        2 ヒステリーの病因としてのトラウマ
        3 トラウマと精神分析
        4 戦争のトラウマと戦闘神経症
        5 トラウマ反応の理解の統合化
        6 1980年以降の展開
      第2章 現在のPTSD概念
        1 DSM-ⅣにおけるPTSD
        2 トラウマとなりうるストレス
        3 侵入性の症状
        4 回避性および麻痺の症状
        5 自律神経の興奮症状
      第3章 トラウマとは何か
        1 トラウマの定義
        2 PTSD症状の力動的理解:トラウマ反応の二相性
        3 トラウマの再現性
        4 自己概念および対象概念に対するトラウマの影響
        5 感情調整の障害
        6 自傷行為−感情調整機能という観点からの理解
        7 トラウマと解離性障害
        8 トラウマの内在化という概念について
        9 トラウマ反応に関する包括的な理解
        10 トラウマと境界性人格障害

    第Ⅱ部 子どもの虐待とトラウマ

      第4章 虐待の四つの形態
        1 身体的虐待(physical abuse)
        2 ネグレクト(neglect)
        3 性的虐待(sexual abuse)
        4 心理的虐待(psychological abuse)
      第5章 虐待による心理的影響:トラウマの視点から
        1 トラウマ刺激としての虐待
        2 子どものトラウマ反応
        3 虐待によるトラウマの『自己』の諸機能への影響

    第Ⅲ部 トラウマへの心理療法的接近

      第6章 トラウマの心理療法の一般的原則
        1 トラウマを解決するとは:心理療法の目標
        2 トラウマの心理療法の原則
      第7章 トラウマを受けた子どもの心理療法
        1 修正的接近:トラウマによって生じた歪みの修正
        2 回復的接近:トラウマへの直接的な働きかけ
        3 現状と今後の課題

      おわりに