「あとがき」より

 本書は,失語症とその関連障害の臨床および研究に携わる人々,これから失語症について学ぶ学生などがそれぞれの場で実践的に利用できることを目的としている。したがって,網羅した内容は多岐に渡っており,失語学の基礎と臨床,その周辺の神経心理学の現状,さらには患者の社会参加やQOLにまで及んでいる。
 近年の脳科学,神経心理学,言語治療学の発展は日進月歩であり,脳内の言語処理機構およびそれが損傷された患者のリハビリテーションについて,かなりの知見が集積してきている。脳科学および神経心理学に関しては,種々の技術的発展に大きく支えられた研究の一端がこの分野に劇的な表現を見せている。また,言語治療学に関しては,言語治療研究の進歩や,関連学問領域の発展に触発された研究が着実に失語症のリハビリテーションに関して貴重な知見を蓄積している。
 本書は,これらの各領域において第一線で研究をなさっている諸先生に現時点での最新の知見をまとめていただいた。「脳と言語」の問題は複雑かつ深遠で,その全貌解明はまだであるが,今後も学際的な研究が必要であると考えられる。本書は,このような学際性を重んじ,幅広い領域から80名を超える先生方に執筆をお願いした。
 本書の編集作業中に,言語聴覚障害を持つ人々およびその言語臨床に携わる者にとって画期的な意義を有する法律が制定された。言うまでもなく,それは平成9年12月末制定の言語聴覚士法である。「言語聴覚士」の国家資格認定という社会的な背景のもとに,今後,言語障害の臨床とリハビリテーションの領域は著しい発展を見せるものと期待される。
 人間にとってかけがえのない言語を障害された人々に良質の言語治療を提供する上で本書がいくらかでも貢献できれば幸いである。最後に,ご多忙の中,健筆をふるっていただいた多くの先生方に深く感謝いたしたい。
……(後略)

波多野和夫
藤田 郁代