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「日本語版への序」より

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 心理療法は,人を内面から変えることのできるプロセスと言えるだろう。外面を変えるのは物理的な力だが,内面を変えるのは心と精神である。機械は,(最も高度な知能を持つコンピュータでさえも)外部からプログラムされ「世話され」ねばならない。日本の伝統を見てもよく分かるように,創造的精神が備わっているからこそ,人は,受け取った情報を時には変形したり,修正したり,増やすなどして,広く応用できるのだ。その作業を一人でやるよりも簡単にうまくできるよう手助けするのが,心理療法である。
 しかし,心理療法の目的がただ一つ,内面を変えることだとしても,その変化を生み出すためのセラピーには,実に多くの異なった方法がある。第8章において,我々は「セルフセラピー」を提案するが,それは基本的に催眠による方法である。我々はこれを「ニューヒプノシス」(巻末のReference参照)と呼ぶ。なぜなら,これも確かに催眠であるが,理論においても実践においても従来の催眠とは大きく異なるためである。「ニューヒプノシス」とは,無意識のうちに思いこんだり感じたり期待している患者の心を変えるために,患者自身のもつ想像力や,隠喩したり象徴する力を用いる方法である。それは,患者の心の無意識の部分に働きかけるため,変化していくプロセスや変化した結果を,必ずしも頭で理解しなくても,患者は変わることができる。
 この方法を,ニューヒプノシスと呼ぶのは,従来の催眠と区別するためである。人が想像を広げることによってユニークな内的体験をし,それに助けられてよりよく変化できる──それが催眠なのだ。このニューヒプノシスには,従来のアプローチのような正式な催眠誘導は必要ないため,普通,誰でも催眠を用いることができる。つまり,「催眠を行うことができるかどうか」という判断は,ここでは不用なのだ。このアプローチは自然で,無理強いや押しつけなどない。支配的ではなく,寛大で,そして何よりも,それは解決志向的であり,問題に焦点をあてるものではない。
 我々の方法は,無意識という概念(普通の人なら誰でも持っているのにあまりよく自覚していない,人間の原動力であり,資質であり英知である)及び行動主義(生活を改善してより楽しむために,習慣と行動を変えるという考え)に基づいている。しかし,それは従来の精神分析のような分析ではなく,むしろ,個人を変える内面の体験といえよう。第2章に登場するD氏のケースは,彼自身が自分のためによい変化を遂げたようすを示している。
 第8章に示されるように,ニューヒプノシスに基づいたセルフセラピーは(単に表面的な変化ではなく),たいへん効果的な改善を遂げる。仮に心理療法をいくら延長したところで,このセルフセラピー以上の効果的な変化は望めないだろう。精神分析家の資格をもつ主著者は,問題とその原因よりも,可能性と解決に治療の焦点をあてる方がより効果的なことを,何年も前に発見した。それが転機となって,解決志向ブリーフセラピーに至ったわけである。美術,音楽,建築及び生活全般にわたって日本の伝統を貫く重要な柱は,「余分なものをいっさい捨て去って最小限のものを活かすという精神」(最小限主義/ミニマリズム)であるが,解決志向ブリーフセラピーには,いろんな意味でこの日本文化の精神に通じるものがあるといえないだろうか。セラピストの努めとは,本来,問題の全体像を明確に知って理解することではなく,自分を悩ませている状況を変えるための最良の方法を患者自身が見つけられるよう手助けすることと,我々は考える。患者の抱える問題に対する解決法は,患者自身から生まれてこなければならないが,そのためには,患者が自らの中にある資力を用いて自分の人生を豊かにできるよう,セラピストの手助けが必要である。つまり,セラピストは治療者というよりも,改善のきっかけを与える者であり,手助けする者であり,道案内する者と言えるだろう。だからこそ,我々は「セルフセラピー」を強く主張したいと思う。
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 最後に,マネージド・ケアのシステムから生まれた当然の結果として,現在のアメリカでは薬中心の風潮が見られるが,日本の皆さんが,賢明にもまだその風潮を許しておられないことは,すばらしいことだと思う。多くのアメリカ人が,人間のあらゆる痛みや苦しみに薬を見つけ,心理療法を無用のものにしようとしているかに見える今日,本書が日本で翻訳出版されることの意義は大きい。日本の皆さんが我々の主張に賛同してくださったものと喜んでいる。──人間は,人生や社会で意義ある変化を生み出すために,自分自身の心の資力を使うべきだ──これが我々の主張である。つまり,薬をはじめとして外的要因からどれだけ援助を受けることができても,我々は人間として自分の内面を見つめ,変化することを決意し,自分の望む目標を達成するために,心の資力を用いねばならない。ほぼ全面的に──あるいは完全に!──外的手段のみに頼ることはできないのだ。人間は皆,自分の中の治療者を呼び起こすべきだ,と我々は考える。それこそがまさに,本書の願いである。

1999年2月26日,ニューヨーク ダニエル・L・アローズ/マリー・A・キャレッセ

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