「はじめに」

 ここ数年,スクールカウンセラーや教育関係の相談担当者の間では「学校臨床にはシステムの視点が不可欠である」といわれてきた。しかし,「学校はシステムである」とはわかっていながらも,その中心であるシステム論の説明や理解,アプローチの方法などは具体的に明らかにされないままであった。ここでは「システム論」とできるだけ表記を統一し,共通する基礎的なものごとの認識の仕方を指すものとした。そして,「システム論からみた学校臨床」という標題にあるように,学校というシステムをどのように考えるのか,どのようにアプローチするのか,これまで示されてこなかったことに答えることが本書を企画した目的である。
 まず,学校臨床という言葉が注目されるようになったのは,90年代に入ってからであろう。文部省が子ども達の不適応が爆発的に増加する傾向に歯止めをかけるための対策として企画した,スクールカウンセラーの導入からである。スクールカウンセラーとは,学校という組織で相談業務を仕事とする学校臨床心理士の通称のことで,学校システムの特殊性を考慮しながら,心理的援助・心理的サービスという職能を発揮する職務である。
 しかし,学校は教育の専門機関であるため,複雑で重層的な組織や,教育の世界独特の考え方,特殊な考え方・立場を極力排除しようとする排他性など,多様な特性を持つ存在である。そうした学校という組織を理解するには,これまでの個人心理学の視点ではなく,システム論の立場が最も有効である。それは,学校臨床の援助対象者が個々の児童・生徒であったとしても,それが学校臨床であるかぎりは「学校という組織を意識した援助」が不可欠だからである。担任や学年会,教育相談委員会や生徒指導委員会など,学校に相談や援助のための機能や組織が備わっている以上,それらを無視したところで援助活動を展開することはできないからである。それは「組織として」個々の児童・生徒への援助を常に意識することが要求されていることを物語っている。本書の一つの特徴は,このような学校システムとの「より良いおつき合いの仕方」を示唆している。
 もう一つの特徴は,学校臨床における方法論に関することである。他の一般的な臨床とは異なり,学校臨床で最も重視されねばならないのは,児童・生徒への直接的な心理面接ではなく,教職員の児童・生徒・保護者への援助をサポートするためのコンサルテーションである。コンサルテーションとは,相談を担当している専門家(学校では教職員)への援助で,学校システムで行われてきた教職員と児童・生徒・保護者との間で行われる相談活動をより効果的・効率的に行うための援助である。学校臨床の特徴として児童・生徒・保護者などが最初に相談する対象は,担任などの教職員で,教職員が相談の矢面に立たされている。このような相談は,学校にとって通常の教育活動の一環として見なされている。したがって,ごく自然に相談を受ける教職員への援助を行う方が,自然で効率的な援助となる。いわば,学校でごく自然に発生する相談を担当する教職員を活性化することが,教育の世界のあり方をそのままにした形での援助となると思われる。
 特に本書では,システム論の考え方によるコンサルテーションだけではなく,システム論を駆使した発展的なシステムズ・コンサルテーションを取り上げている。これは,学校システムなどの組織において発生した問題を容易に解消しうるコンサルテーションである。学校臨床でもすでにそのいくつかが活用され,顕著な改善を示した事例を中心として,その実体を紹介している。
 本書は,スクールカウンセラーだけでなく,学校にかかわる臨床心理士,教育関係の相談担当者,教職員など,まさに学校臨床にかかわるすべての人に薦めたい。それは,システム論の考え方という,これまでの個人心理学にはない視点を提供しているからである。また,システム論による問題解決の方法論も,それぞれの事例での取り組みから流用していただければ,即座に利用可能である。特にシステムズ・コンサルテーションは,適切な働きかけを行うならば,膠着化した事例や複雑な事例,学級崩壊などの集団での問題などにも顕著な効果が得られる方法である。その意味で,より広範な教育に関連する相談業務に就いている人達に,是非お薦めしたい。
 最後に,本書の内容を依頼した数名の著者は,文字通りシステム論からみた学校臨床に長けた人材である。彼らの労作から,学校システムと良好な関係を持てるスクールカウンセラーが増え,学校臨床で様々な困難をかかえる教職員・児童・生徒・保護者の負担が少しでも軽減することを心より祈りたい。

編者 吉川 悟