「はじめに」

 講義用にまとめた『新児童精神医学入門』を上梓したあと,もう一つ,自分の考えをまとめた著書を書いてみたいと思うようになっていた。梅ヶ丘病院の臨床を離れてからも講演を依頼されたり,私立学校で生徒の精神衛生相談に応じたりしているうちに今まで気がつかなかった局面をみることができたこともあったし,つぎつぎと外国での新しい文献に触れることがあってのことである。
 昨年6月,金剛出版から論文をまとめて出版しないかという話があり,最近の知見を追加するために大幅に手を入れることも承諾していただけた。本書は単独で学術誌に掲載されたものに手を加えたものもあるが,多くは複数の論文をアレンジしたものである。その中には梅ヶ丘病院の海老島宏部長,山田佐登留医長両氏のケースをいただいて共著で発表された論文も含まれているが,どれも加筆して体裁も大きく変っているので,このさい,両氏のご好意に感謝の意を述べることにとどめさせていただいた。
 私の臨床は最初に理論があって,それにそって進めていくというよりも,診察を重ねながら,新たな考え方のもとに患者を理解し,方策を模索していくことが主となっていた。ここでは治療とは既成の理論に当てはめることではなく,新たな理論づけをしながら対策を練ることであった。こうして描き出された考えが本書の各章を構成しているわけだが,私はこれを最近の科学の特徴である非線形の自然現象に複雑な理論式を仮定し,コンピュターに数値を入力して予想値を出していく手法と重ね合わせてみた。これが巻末にある試論である。まだまだ未完成な構想であるが,物事を簡略化しないで扱う論法としてあえて読者に賛否を問いたいと思っている。
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