「あとがき」より

 最後に短期療法を実践する上でもう一つだけ重要な点について述べておきたいことがあります。それは<単一アプローチが悪循環にはまるとき>についてです。
 
 これは心理療法に限ってのことではありませんが,これまでの心理療法の歴史は,単一アプローチの優位性と正しさを主張し,他のアプローチを排除してきたという歴史を持ちます。そしてそのより正しいアプローチが主張する方法以外を悪とするなどということが行われてきたのです。例えば,初期のクライエント中心療法ではセラピストによる質問の多用が悪とされました。また,その他の心理療法においても同様なことが見受けられます。そして,近年では短期療法家の中でもそのようなことが起こっているのです。それは近年,BFTC解決志向アプローチの専門家への浸透は目覚しいものですが,その中でこの厄介な現象が起こっています。それは,解決志向という単一アプローチのみを正しいとするような考え方です。心理療法の中で,解決志向アプローチは短期療法の一つのアプローチに過ぎず,また,どんなに素晴らしいアプローチでも適用が難しいケースがあるのです。それはBFTCが主張するように何事にも「例外」というものがあるからです。
 第一次サイバネティクスの視点,そして第二次サイバネティクスの視点により短期/家族療法の理論やテクニックは移行を示していますが,どちらが良いとか悪いとかという議論をするのではなく,それは視点の相違に過ぎないという見方が必要になります。本書では,第二次家族療法以降の言葉の構成と意味システムに焦点を当てた現在の流れに対して,この現在の流れに乗りながらも行動パターンの構成という第一次短期/家族療法の視点を捨て去らないために,むしろ行動パターンというものを強調しました。これは戦略的に<あれも,これも>という視点を見出したかったからです。元々,短期療法の最も基本的で重要な考え方は,<あれか,これか>ではなく,<あれも,これも>というものだからです。
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