「まえがき」より

 本書は,症候として示された勢力と隠瞭についての問題意識を発端として展開された,治療的アプローチについて書かれたものであるが,この問題意識こそ,症候の特殊性についての理解と,セラピーの間接的戦略に新しい方向をひらくきっかけとなったのであった。
 第1章では,相互行為の隠職的連鎖,症候行動にまつわる“事前計画”,無力感が力の源泉である時に見られる階層的不適切性等についての概念を展開する。間接的でユーモアのある介入事例が2つ提示されよう。
 第2章では,二者問の関係が第三者の関与に依拠する可能性を探る。たとえばある親子間の葛藤はその親と別の子どもの葛藤を代替するもの,つまり隠喩であるかもしれないこと。実際の関係における利益配分についての隠された契約には階層と力の問題がついてまわることを論じたい。隠喩を変化させ,利益を再配分し,契約を交渉するためにユーモアが用いられた事例によって,2つの間接的戦略が提示されている。
 第3章では,メンタルヘルスの分野で手つかずの資源(親に対してのセラピストとしての子どもたち)を紹介する。子どもが症候を示しているといないとにかかわらず,親が問題を訴える時にこのアプローチを用いることができよう。子どもたちには親の生活のある面を任され,変化を促がす責任が与えられる。親に助言,愛と心遣いを与え,自分たちの自信と配慮を見習うよう親を動かし,自分たちが責任をとる必要がないように親を刺激する力が子どもたちに与えられるのである。3つの事例が引用されるだろう。
 第4章では,事例を通して,セラピーにおけるユーモアの役目が論じられる。重苦しい状態にあってもおかしさや光を見ることのできるセラピストの能力が変化を可能にする。重層的なレベルでコミュニケートし,一貫性が無く非論理的であることは,ユーモアに富み,治療的でさえあるのだ。
 第5章では,セラピーに持ち込まれた問題についての8つの次元での概念化が示されると同時に,事例を伴った10の逆説的戦略が述べられる。問題の概念に基づいて適切な戦術を選択すべきことを強調するためである。
 
 本書を通じて,多様な問題をカバーする30の事例が引用されるが,各事例において,私は,スーパーバイザーの役割を務めた。マジックミラーの陰から面接を観察し,アプローチを計画し,面接中にセラピストを電話で呼び出し意見を出す等,面接の一部始終を通してセラピストを指導したのである。読者も同様に事例研究を通じて,マジックミラーの陰で私が何を考えていたのか,どの仮説がとりあげられ,遺棄されたのか,戦略はどのように計画され実践されたのかを逐次知ることになるだろう。
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クロエ・マタネス