改訂版のまえがき

 精神科治療薬の上手な使い方の初版が発行されてから,5年余が過ぎました。この間,この本は臨床医の方々の手引き書として,また,研修医の教科書として,重宝されていたと聞いています。
 最近の精神薬理学の進歩には著しいものがあり,この5年間に新しい精神科治療薬が次々と開発されて,発売となりました。アメリカで爆発的な人気をもち,夢の抗うつ薬といわれるSSRIが,日本でも1999年に発売されました。ルボックス,デプロメール(fluvoxamine)です。この薬の登場で,うつ病の薬物治療は,かなり変わってきました。精神分裂病の治療薬も非定型抗精神病薬のリスパダール(risperidone)が発売されて,薬が効きにくい陰性症状の治療にも一筋の光が投げかけられました。抗不安薬では,まったく新しいタイプのセディール(tandospirone)が発売され,薬物依存になりにくい抗不安薬として登場しています。睡眠薬では,ベンゾジアゼピン受容体部分作動薬のドラール(quazepam)が,ふらつきの少ない睡眠薬として1999年に発売となっています。
 これらの薬に共通した特徴は,今までの精神科治療薬が偶然見つかったものであったのに対して,脳内物質やその受容体がどのような働きをしているかを見極めて,科学的な根拠から開発されていることです。これらの新薬の発売によって,精神神経科や心療内科では,幅の広い薬物治療が可能になりました。本書では,これらの薬を用いた薬物療法を解説するとともに,ここ5年間の精神神経科の治療法に関する新しい知見についても,書き加えました。
 飛躍的に進歩した分野はアルツハイマー病の治療薬でしょう。記憶と関連した脳のアセチルコリンを直接増やすアリセプト(donepezil)が1999年の暮に発売されて,アルツハイマー病の治療が初めて行えるようになりました。また,社会的には,日本でも介護保険が2000年の4月からスタートし,医師は意見書を作成することになりました。本書では,老年期痴呆と脳機能改善薬の章を全面的に書き直し,高齢者の新しい薬物療法と介護保険について解説しました。
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中河原通夫