「日本語版への序文」より

 家族内のストレスによって生じる問題は多岐にわたっている。それは,夫婦の不仲や離婚に始まり,非行,自殺や殺人,児童虐待,さらには心身の病気などが含まれる。長い間,こうした問題に対する解決策は不十分なままであった。しかし最近,家族のストレス管理に関して家族と精神保健サービス機関が協力して行うアプローチが有効であることを支持する対照比較研究が相次いでいる。例えば,成人の精神保健ケアのために臨床評価や治療の基礎として認知・行動療法的な家族介入を用いる総合的アプローチは,広い範囲の家族問題について家族内外における病理の頻度を減じることが示された。その適応の中には,広場恐怖症,気分障害や精神分裂病などの精神疾患からの回復の促進が含まれる。
 われわれが開発した家族介入のストレス管理モデルは,主なストレスだけではなく,日常生活の問題の解決に向け関係者全員が払っている努力についての長所と短所についても評価する。その方法は教育的で,各自のニーズやストレスに関してよりよいコミュニケーションや構造的問題解決戦略を用いて問題解決をはかるよう家族メンバーに有効な協調的方法を教授することを目的としている。健康や社会問題に関連した特別のストレスの知識や理解が必要とされる場合には,病気の性質やその治療法などについての要点が講義される。家庭内で行われる話し合いの中で,当事者である家族メンバーは,可能な限りその問題についての専門家として振舞うように期待される。家族単位のコミュニケーションや問題解決技能の向上のための教育的アプローチも同様なリラックスした雰囲気の中で実施される。自分たちのストレス解消に向けた努力を支援してもらうために,家族は近隣に住む親戚や友人の参加を求めることもある。
 多くの場合,問題の解決策は家族メンバー自身によって見出される。しかし,心身の疾患の症状などの特別な問題の場合には,特別な生物医学的ないし心理社会的な治療法が有効であることが示されてきた。そうした場合,専門家のチームが介入法の利点と欠点について家族に説明し,その最善の適用が行われるように励ます役割を担う。その例としては,不安,抑うつ,精神病症状ないし躁症状,睡眠や摂食に関する問題,物質乱用,怒りの管理,強迫症状などに対する薬物療法や心理社会的介入が含まれる。
 家族問題に関するこのアプローチは,今や主要な精神疾患の治療の核心に位置すると考えられるようになった。この本は,50時間の訓練プログラムによって,さまざまな保健専門職にこの方法を教育するためのガイドブックである。家族の多くも,この本を読んで巻末にある目的別のガイドシートを用いることにより,ここで述べられている方法の多くを適用することができることが分かった。さらに上手く利用できるように,この本を補う一連の教科書的な小冊子が制作されて,日本語でも出版されている(Falloon et al. (1998) “Integrated Mental Health Care : A Guidebook for Consumers”)。
 白石弘巳博士らのグループにより行われた,『家族のストレス・マネージメント』の翻訳は,現代生活のストレスに対処する日本の家族を支援する一連の努力をさらに一歩進めるものである。この本が,心身の疾患に罹患したメンバーのケアを担う家族が,過大なストレスや負荷を感じることなく,より積極的にケアに関与することを可能にするための一助となることを期待したい。これらのアプローチは,患者,友人,家族が保健医療の専門家と緊密な連絡を保ちつつ,十分かつ持続的な回復が得られるまで継続して行われるときに最も効果があがることを強調したい。奇跡も起こりうるが,通常は年余にわたるたゆまぬ努力が必要になる。多くの人にとってその道程は平坦ではなく,問題もつきまとう。しかし,結果はほとんど常に払った努力に見合うものである。家族は,疾病からの回復を促進するばかりではなく,疾病を予防する上でも最も重要な資源であることに変わりがない。これは決して忘れてはならないことである。

 イアン・ファルーン