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「断章」より

 この物語は,多分ぼくの英語コンプレックスから起こっている。ぼくが小学一年生のころ,米空軍のB‐29は菱形の編隊で福岡空爆へと向かうのを見ていたぼくは,ヨーロッパでのフロイト派集会のとき,それを再体験した。
 
 今思えば,このときの三人の旅が,ぼくをぼくたらしめた。一方は今はときめく,慈恵医大精神科教授のU先生であり,もう一人はK市の医務官である。
 
 ロンドンにパリから引き上げたとき,三人が,ある本屋に立ち寄り,それぞれ,一冊の本を選ぶことになった。ぼくは “a man Frend” というものを選んだ。このとき,すでにぼくは人間としてのフロイトを見習おうと考えていたからである。
 
 英語に弱いぼくは,日本に帰ると決断した。日本語なら奴らにまけない,ということである。
 
 それから四年間,世界中の誰よりも多く本を読んだ。そして二音節動詞の分析にのめり込んだのである。もし分析できなかったら死あるのみであった。生きるか死ぬか,身を削り,血をなめながらものごとは進行した。
 
 無謀といえば,無謀であるが,沸き起こる血はとめられなかった。
 『「コトバと心」の起源』と言う自費出版書がこうして出来たのである。
 
 ぼくは,日本に生まれてよかったと思った。日本語に一番感謝しているのはぼくではなかろうか。
 
 それでは本文を見て頂こう。
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