監訳者まえがき

 本書はオハンロンの解決志向催眠療法に関するワークショップ記録をまとめたものです。オハンロンは1970年代の終わり頃,ミルトン・エリクソンから直接指導を受けた,数少ない人の一人です。彼のワークショップは明解で,とても分かりやすいことで有名です。
 本書はエリクソンの催眠療法の本質を的確に提供していますが,催眠療法というより,むしろ,心理療法の本質を述べ,それを習得していくための具体的な方法を提示していると言えます。エリクソンの高弟,ジェイ・ヘイリーも,催眠は一つのコミュニケーション・スタイルであると述べています。どのオリエンテーションをもつ治療者であれ,いかにクライエントと効果的なコミュニケーションをするかが心理臨床の真髄だと考えていることでしょう。その点,エリクソンの催眠誘導の過程は,クライエントの考えや行動を尊重し,その人の動きに応じた柔軟な暗示を組み入れていく,失敗のない安全なコミュニケーションをその中核にしています。
 また,催眠体験はクライエントにとっても,自己に新しい変化への可能性を開くものです。さらに,催眠誘導後,治療者がいかにコミュニケーションを通して,解決を導く体験の喚起をクライエントにもたらすことができるかは,変化を志向するどの心理療法においても共通するものであり,本書の中には,その手がかりがたくさん埋め込まれています。
 本書を通して,効果的なコミュニケーションの過程を学習することが心理臨床の専門性をより高めてくれると思います。21世紀を迎えた今,日本の心理臨床において,本書が少なからず貢献できることを信じています。
 なお,催眠の学習については,日本催眠医学心理学会など,学会が主催する研修会に参加し,是非,研鑽を積んでほしいと思います。
 訳者の津川秀夫さんは,心理臨床における若手の新進気鋭の研究者であり,臨床家です。彼は,国内で開催されたエリクソン派のワークショップだけでなく,アメリカ,アリゾナ州にある,エリクソン財団のワークショップも積極的に出かけて臨床研修を積んで来ています。その彼の努力で,本書はたいへん分かりやすい訳になっていると思います。
 本書の出版のために御尽力し,光栄にも筆者を監訳者としてご指名してくださった柴田出先生(柴田クリニック)にたいへん感謝しています。……(後略)

監訳者 宮田敬一