あとがき

 10年一昔
 16年も児童相談所長をやると、思い出したくない自分の顔が浮かび、いたたまれない日がある。就任早々、救急病院で会った被虐待幼児が、外泊中の二度目の意識不明を経てとうとう家庭に戻ることなく社会に巣立った。屈託なく、よかったねと祝福したあの日の私。必死の思いで他県に逃がしても、何喰わぬ顔で子どもを連れて暴力夫の元に戻ることを繰り返す母親たち。うんざりして、夫婦げんかは犬も喰わぬと嘯いていたときの私。などと訳知り顔で書いているこの顔を、10年後にはどんなふうに思い出すのだろう。
 就任当時、世の中の最大の関心事は「校内暴力」だった。毎日、荒れる学校がメディアをにぎわしていた。まもなく世の中の関心は「不登校」「いじめ」「子どもの自殺」へと移り、今は「17歳問題」「児童虐待」である。乗り越えなくても忘れていけるこの国で、10年後、児童虐待への関心と件数はどんな相関をみせているだろうか。
 事件は現場で起きている!
 虐待問題が取りあげられるたびに、私の中で、児童相談所として発言せねばならないという強迫的な思いが高まっている。「児童虐待の防止等に関する法律」の施行とともに、その思いはいっそう強くなった。そして、北海道から沖縄県まで、全国の児童相談所の現役・OBの方に声をかけたところ、ほとんどの方の賛同をいただいた。結果としては箱根の山を越えられなかったが、この本に込められた思いは、全国174児相のものであると信じている。批判は謙虚に受けとめつつ、工夫で凌いでいる現状と将来への課題、熱い思いと哀しみの涙、それらすべてをつめこんだ本書は、イッパイイッパイの児相の We insist!である。
……(後略)

岡田隆介