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日本語版への序文

 私たちの著書が日本語に翻訳出版され,ここに日本語版への序文を書かせていただけることは大変名誉なことであります。早期精神病の予防的戦略に対する世界中での関心の高まりは,精神医療の改革における新しい動きであり,生物学的精神医学と地域精神医学の両方の分野に進歩をもたらすものであります。より良い治療とよりアクセスしやすくまた期待に応えうるサービスにより,疾患の早い段階にある若者を,大部分とは言わないまでも多くを,早かれ遅かれ実際に助けることができることが明らかになってきました。しかしながら,もし最適な治療が提供されなければ,このようなことも起こらないでしょう。
 早期介入の主要な要素は初回エピソード精神病の早期発見であり,“臨界期”として知られる最初の数年間における集中的で至適なマネジメントです。これは,低用量の新しい抗精神病薬と認知科学に基盤を置いた熟練した心理社会的介入のバランスの良い組み合わせを意味しています。社会的環境と家族環境はあらゆる社会において決定的な問題であり,注意深く修復され,援助され,励まされなければならないのです。これらの疾患に関する生物学的基礎についてのより良い理解が重要になるでしょうが,私たちはすでに精神分裂病や他の精神疾患の予後を有意に改善するための知識と道具を持ち合わせています。非感情性の精神病や感情性精神病にかかった人々にとって,問題は精神病の中心症状が寛解するか否かではなく(寛解は80%の症例で生じる),むしろ問題となるのは機能的な回復が続くか否かです。これはより不確実なことなのです。なぜならある部分は我々の社会が長引いた入院や施設収容とか人々を地域の中で不適切なサポートや介入によってマネジすることでダメージをさらにひどくしてしまったからです。疾患の初期の病相は,これらの努力がおそらく費用対効果において最も優れている時期です。
 我々2人はどちらも日本の精神保健システムや治療方法についての詳細を知りません。日本でも広く早期介入の実施が実現されるのを望んでいる人々にとって数々の重大な難問に立ち向かわなければならないのは疑いのない事実です。そのひとつとして精神疾患に対して広範な入院治療が行われていることとも関係しているかもしれません。しかしながら,この大規模な資源は素晴らしい進歩の機会を提供しているのです。もし入院治療に関連した資金が部分的にでも若者の早期精神病に焦点をおいた精神保健サービスや地域中心型サービスによりアクセスしやすいシステムに向けられるならば,非常に大きく予防的効果を高めることになるでしょう。このような議論は他の多くの国でも起こっており,最初は地域精神医療を強化しケアの入院モデルへの依存を減じることから始まり,より最近では早期精神病の患者に焦点を当てるという広範囲な改革へとつながっているのです。多くの国では改革は完全には成し遂げられていないか,あるいは間違った方向に進んでしまったか,あるいは序々に衰えてしまっているため,資源が精神保健分野から失われ,結果的に患者たちが放置されてしまっています。その作業過程は複雑であるものの,それによって将来得られる報酬は大きなものです。もしもその改革が,決断と展望を伴い,注意深く成されるならば,患者や家族が得られる報酬は非常に大きなものとなるのです。
  (後略)

メルボルン大学精神科教授・EPPICセンター長 パトリック・マクゴーリ
メルボルン大学心理学科教授・EPPIC上級研究員 ヘンリー・ジャクソン

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