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監修者まえがき

 本書は,精神疾患の予防的アプローチに関する第一人者であるマクゴーリ教授とジャクソン教授のグループが,これまでの知見と実践を集大成したものである。“予防”を謳った著作としては日本語で紹介されているもっとも詳細で大部のものであり,先駆的な一書といえよう。
 精神障害者の「此邦ニ生レタルノ不幸」(呉秀三,樫田五郎,大正7年)が問われて以来80年が経った。この間,医療技術においては総じて世界の先進国となったわが国ではあるが,精神医療におけるそれは未だ遅れをとっていることは否定できず,内心忸怩たるものがある。 長年の多くの先達の努力により,ようやく地域精神医療に本格的な目が向けられつつあるわが国の状況にあって,精神保健福祉の領域において次に取り組むべき大きな課題は,本書に示されているような早期発見・早期治療であろう。しかるに精神疾患の1次予防や2次予防の問題には,管理的発想やプライバシーの保護などさまざまな課題が伴い,何よりも慎重な議論が必要である。こうした点に関する認識は,国が変わっても変わりなく,マクゴーリ教授らのこれまでの実践と研究の歩みも,慎重の上にも慎重を重ねてきたものであることは,本書からも十分に読み取れる。
わが国の精神医療において,精神疾患の早期発見・早期治療は焦眉の急であり,心して取り組むべき課題である。本書の翻訳刊行は,それらの課題に対する訳者らの意欲の現れともいえる。当教室で精神科リハビリテーションの実践と研究に取り組んでいる水野雅文博士と明治学院大学社会学部社会福祉学科の村上雅昭教授のグループと,山梨県立北病院で地道で堅実な臨床を続けている藤井康男副院長のグループは,いずれも若手中心の活発な臨床研究者の集まりであり,彼らが協力して大部の翻訳に取り組んだことを頼もしく思う。本訳書は,精神疾患に苦しむ方々にとっても,治療にあたる我々にとっても,これからの精神医療に希望と期待を抱かせてくれるものといえ,広く読まれることを願うものである。
   平成13年4月吉日

慶應義塾大学医学部精神神経科学教室教授 鹿島 晴雄

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