トリシャ・グリーンハル,ブライアン・ハーウィッツ編/斎藤清二,山本和利,岸本寛史監訳

ナラティブ・ベイスト・メディスン
臨床における物語りと対話

A5判 300頁 定価(本体4,800円+税) 2001年9月刊


ISBN978-4-7724-0706-9

 本書は医学界に強調されてきた「根拠」や「統計」「科学性」に対する補完的な意味をもつ考えであり,新しい時代にかなったパラダイム・シフトを医療者に求める,Narrative Based Medicine(NBM)の意味とその重要性を提示する画期的な書物である。
 人間はそれぞれ,自分の「物語り」を生きており,「病気」もまた,その物語りの一部である。しかし,現状の医学においては病気も,患者の物語りも,患者自身でさえ,臨床の現場から疎外され,ただの「疾患名」をもった対象にしか見られない。その疾患が医学的に治療可能な場合は問題は少ないものの,治療が不可能であったり,困難であるとき,あるいは重度の障害や高齢者のケアの場合などに,患者の語る物語りに傾聴しないことは,その人の人生の破壊にすらつながってしまう危険性をもつ。治療を受ける側が自ら語り出す「ナラティブ」を重視し,対話を臨床実践に生かすことは,医療の重要な責務でもあり,医療が患者と治療者のあいだでスムースに進み,臨床が真に確立する鍵ともなる。
 EBM(根拠に基づく医療)の研究者でもあった編者らと,医療の第一線で活躍する29名の医師等によって書かれた本書は,NBMの理論とその背景,そして実践に関する膨大な情報をまとめたもので,医師をはじめとするすべての医療関係者に役立つはずである。

おもな目次

      推薦の辞:河合隼雄
      日本語版への序:ブライアン・ハーウィッツ,トリシャ・グリーンハル
      序文:ハワード・ブロディ

    第1部 概   説

      第1章 なぜ物語りを学ぶのか?:トリシャ・グリーンハル,ブライアン・ハーウィッツ
      第2章 世界としての物語り:アンナ・ドナルド

    第2部 病いの物語

      第3章 中央値は何も語らない:スティーブン・ジェイ・グールド
      第4章 私の人生が変わった晩:ロバート・マックラム
      第5章 血友病サバイバルガイド:ドナルド・ベイトマン
      第6章 死に逝く人々の物語―ホスピスケアにおける記述療法:ギリー・ボルトン
      第7章 小児てんかんの物語り―「わたし,てんかん? それともてんかんがわたし?」:ヘンリエッタ・ワインバーン,パラミット・ジル
        栃:トリシャ・グリーンハル

    第3部 医療における物語り

      第8章 痛みの物語り:リチャード・ベイリス卿
      第9章 物語に寄り添って―一般診療におけるケアの継続性:イオナ・ヒース
      第10章 実地医療における精神保健と物語り:ジョン・ローナー
      第11章 セイレーンと迷い犬とヒルダ・トムソンの物語り:マーシャル・マリンカー
      第12章 外科と物語り:ジェームズ・オーエン・ドライフ
        トムへ:リシャ・グリーンハル

    第4部 物語りの学習と教育

      第13章 医学における文学:スティーブン・ラックマン
      第14章 医学部教育で人文学を教えること:ハリエット・A・スキアー
      第15章 英国医療における「黄金の語り」:スチュアート・ホガース,ララ・マークス
      第16章 看護,物語りと道徳的想像力:P・アン・スコット
        死者の記録―一般診療における瞑想と調査:ブライアン・ハーウィッツ

    第5部 ヘルス・ケアにおける物語りの理解

      第17章 聴く物語と語る物語―臨床現場における会話の分析:グリン・エルウィン,リチャード・グイン
      第18章 心理療法における物語り:ジェレミー・ホームズ
      第19章 電子診療記録と「物語りの素材」―ナラティブ学のモデル:スティーブン・ケイ,イアン・パーブ
      第20章 臨床における逸話:ジェイン・マクノートン
        患者の個人的体験のデータベース:トリシャ・グリーンハル

    第6部 ヘルス・ケアにおける物語りの展開

      第21章 医療倫理における物語り:アン・ハドソン・ジョーンズ
      第22章 人類学と語り:ヴィーダ・スカルタン
      第23章 傷ついた語り手―医療過誤における物語りの織り糸:ブライアン・ハーウィッツ
      第24章 根拠に基づく世界における物語りに基づく医療:トリシャ・グリーンハル
      第25章 臓器が奏でる音楽:ルース・リチャードソン