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「訳者まえがき」より

 今日学校カウンセリングの領域では、ブリーフセラピーの一種、解決焦点化アプローチ(Solution-Focused-Approach:SFAと略する)が興隆を見ている。このSFAは、問題除去ではなく解決構築に焦点を当てるカウンセリングである。伝統的な医療・治療モデルではなく、心理教育的援助モデルと言うことができる。一人ひとりの生徒が持っている健康な部分、リソースや強さを重視し、カウンセラーと生徒が「協同」して、解決イメージをつくり、解決を構築する。コンピテンスに基づくアプローチでもあり、生徒一人ひとりの有能感、達成感、自信を育てていく。この学校カウンセリング・モデルが、新しい世紀に臨んで、どのような見通しのもとに、いかなる解決構築を目指すのか。この問いかけに一つの解答をタイムリーに与えてくれるものが、本著『学校を変えるカウンセリング』(Davis & Osborn, 2000)と考えることができよう。
 著者の一人であるデービスは、オハイオ大学カウンセラー教育部門の教授であり、もう一人のオズボーンは、オハイオ州のケント州立大学のカウンセリング・人間発達プログラムで大学院生を指導している。いずれの二人も気鋭の心理学者で、かつ臨床家であり、学校でのSFAの領域で優れた業績を上げている。
 著者は、まず「はじめに」で、プロとしての「解決焦点化学校カウンセラー」の特徴を提示する。注目されるのは、説明責任と信用が大切な時代を反映し、「学問的な成果に基づく実践家である」ことを強調している点である。確立された学識による合理的で、適切な介入を行うべきであると考える。そして、「時間を最大限に生かす」、「惜しげもなく賛嘆を与える」、「健康に目を向ける」、「解決構築主義」などの、どれをとっても興味深い特徴を掲げ、それらを学校カウンセラーの成長の指針と考える。新しい時代に求められる学校カウンセラーの成長や資質を考える上で注目すべき指針と言えよう。
 本著の前半(第一、二、三章)では、まず最初に、「ブリーフ」についての数多くの研究者・実践者の考えや成果を、文献を通して振り返る。ブリーフのもつ時間的特質について検討し、ブリーフ・カウンセリングの特徴をも考察する。特に多忙な学校場面では、「時間に意図的」であり、「時間を合理的に用いる」必要があるという。そして、八〇年代から始まった学校でのSFAの研究とその動向を、心理学の専門的な視点から分析・整理している。そして、発展上にあるSFAモデルの将来の展望をも含めて、解決焦点化に基づく学校カウンセリングの今後のあり方を提言している。優れたレビューであり、一読に値するものといえよう。また、著者は、伝統的な学校カウンセリングから解決焦点化による学校カウンセリングへのパラダイムの移行を、いくつかの重要な論点に基づき整理している。例えば、生徒に対する視点は「欠点」から「資質」へ、生徒は「学習者」ではなく「教師」へ、また、「病気」ではなく「行き詰まり」と見る、解決は「生徒の外側にある」から「生徒の内側にある」などと、視点を移行させる。著者が作成した整理表を見れば、今後の学校カウンセリングの諸特徴の視点の移行についてその輪郭が鮮やかに浮かび上がってくる。
 後半(第四、五、六章)では、SFAの技法を丁寧に検討し、豊かな事例を紹介している。技法それ自体が解決構築に導くのではなく、解決可能だという確信とか、カウンセラーと生徒との協同的な姿勢こそが大切だとする。またSFAの適用場面として、うまくいっているところ、つまり、例外を拡げる機会を提供したり、変化への機会を豊かにする場として、グループ場面を再認識している点が興味深い。また、保護者懇談会や子育てグループへのSFAの導入をも検討し、解決構築のためのパートナーとしての保護者や地域を考える。さらに、学校のあるべき可能な未来像として、例外的な「解決焦点化学校」を提言する。「解決焦点化学校」の実現に、「解決焦点化学校カウンセラー」はメディエーターの役割を果たし、生徒、教職員、保護者の間で、協同することが大切だと言う。こうした考えは、個人を主な対象とする従来の学校カウンセリングから、学校改革のヴィジョンをも視野に入れた学校カウンセリングのあり方に、大きく一歩を踏み出す提案でもある。
 ところで、今日の我が国の教育現場には、いじめや学級崩壊などの深刻な問題がみられる。私たちは、こうした教育再生の問題にいかに取り組むのか。教師や生徒や保護者に対しても、納得のいく取り組みが必要であろう。本書で提案される「解決焦点化学校カウンセラー」や「解決焦点化学校」の考え方は、こうした問題への解決策として、注目すべき力強い提案の一つであり、教育再生に向かう勇気と希望を、私たちに与えてくれるものと期待できよう。
 本著を、教育現場の先生方や学校カウンセラー、学校心理士、臨床心理士の方々、院生・学生の皆さんに、ぜひ読んでいただきたい。SFAの研究成果に裏付けられた、新しい時代に生きる力量のある学校カウンセラー像を、必ずや見出していただけるものと祈念している。
……(後略)

監訳者 市川千秋・宇田 光

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