「はじめに」より

 本書は私たち2人の臨床的交流を通してでき上がった。多くの類似した臨床的症状を呈するクライエントを見て,毎週相互に専門的意見を交わすことで,私たちは互いにクライエントの別の側面を知ることができた。私たちは異なる臨床経験を持ち異なる訓練を受けていることから,過去に虐待経験のあるクライエントを包括的に援助する上で,諸理論を相補的に応用することが必要であると切実に考えるようになった。そして折衷的技法が虐待を受けたクライエントに対してより有効であることを確信した。多様な発達モデルや諸理論のさまざまな側面を心に留めておくことで,子ども時代のトラウマが,いろいろな発達上の流れ,たとえば心的構造の発達,分離−個体化過程,認知,対象関係,自己の発達と統合などに与えた影響について,全体的に理解することが可能になった。
 診断や評価のプロセスの中で,あるいはクライエントの発達過程の中に,どのような欠損や葛藤が明らかにされるとしても,それらの複雑な症状の治療には折衷的技法が必要とされる。本書では子ども時代の身体的,心理的,性的虐待のアダルトサバイバーを治療する時に起こる,外見上互いに異なるまたは相矛盾する臨床的見解を,より凝集的かつ包括的な臨床的介入技法へと高めていくことを試みている。
 私たちの専門性の向上を助けてくれた諸教授,スーパバイザーおよび同僚に感謝する。彼らの臨床上のさまざまな視点は,臨床的統合を目指す上で影響を与え,本書に反映されている。また,この計画を熱心に支持してくれたJason Aronson博士,完璧なサポートをしてくれた司書のCindy Sterlingさん,Jason Aronson Publishersの編集スタッフ,特にJudith CohenさんとGiselle Weissさんに深謝したい。私たちは,本書が子ども時代に受けた虐待のトラウマに悩むアダルトサバイバーの治療に少しでも役立つことを願っている。