「日本語版への序」より

 日本におけるロールシャッハの歴史は長く,素晴らしいものだが,このたび私の著作がその中に加えられることになり,まことに光栄に思う。私はこの10年の間に何度か日本を訪れ,かの地のロールシャッハ仲間と交流する機会を持つことができた。それらはとても楽しい経験となり,日本を訪れるたびに,私は日本の仲間のロールシャッハに対する関心の高さと情熱にいたく感銘を受けたものである。彼らが熱心かつ勤勉にこのテストを学び,用い,研究している様は,実に頼もしく感じられた。日本のロールシャッハ集団は自分たちの業績に誇りを持ってよいと,私は思っている。
 この30年間の発展により,包括システムがかなり複雑なものになってしまったことはよく承知している。自然な流れとして,この複雑さのために,包括システムの使用に熟練したいと考える人たちの困難さは増すこととなった。しかし,人間の体験や努力というのは本来複雑な性質を持っているのだし,この事実は個人の心理を理解しようとする上では避けることができないものである。おそらくロールシャッハの最大の価値は,被検者の複雑さを把握したり,その人を個人としてより素早く理解するための方法論を備えていることにあるのだろう。
 テストを受ける各人のユニークさを知ろうとしてロールシャッハ・データを用いるときの基本的な原理,これをできるだけ平易に示すことが,本書『ロールシャッハの解釈』を著した目的である。本書中にも記したが,これは「プレーンバニラ味」の解説書なので,リサーチ結果や込み入った表の類はたいがい削除した。むしろ,解釈の原理と手続き,そしてさまざまな所見から引き出され得る仮説に焦点を当て,各所見を個人に関する意味ある記述にまとめあげるためのガイドラインを提示することにした。それでも本書がひどく複雑なものに感じられるようなら申し訳ない。しかし,ロールシャッハを解釈しようとする者が,この書を助けにテストの使用に必要なスキルをより容易に習得できるようになるとしたら,本書を著した甲斐があったというものである。
 最後になったが,ノリコ(中村紀子)とその同僚各位に感謝の意を表したい。彼らは,ロールシャッハを用いた自分たちの仕事に包括システムの原理を適用すべく,専門家として真摯な取り組みをしてくれている。また,包括システムの持つさまざまな側面を念の入った適切な日本語に翻訳することに惜しみない努力を払ってくれた。

2002年 JEE