「序  文」より

 精神障害リハビリテーションの理論や援助技術は,重い精神障害をもつ人々の生活の質を着実に向上させている。リハビリテーション活動は,専門家や専門家に準ずる人々(para-professionals),当事者スタッフ(pro-sumers)によって構成される多職種チームに依るところが大きい(当事者スタッフとは,自身も重い精神障害をもち,以前に精神障害リハビリテーションサービスを受けた経験があるか,あるいは現在受けている人で,リハビリテーション活動におけるある範囲においてスタッフとして従事する人々を指す)。機能的なチームは,利用者に対してより質の高いサービスを提供できる。企業の管理学や組織心理学の専門家らは,効果的なチームワークのためのさまざまな発想を生み出してきた。実行力のある効果的なチームづくりに関して,精神保健や精神障害リハビリテーションの専門家による論点も,これらの発想に基づいた考え方を反映している。チームワークを育成する方法論が本書の焦点である。
 臨床家1人が実施可能な支援と,チームによって行われる支援では,その内容にいくつか違いがある。いくつかの支援では,チーム全体で各サービスを調整する必要がある。たとえば積極的地域内処遇チームでは,メンバー全員が利用者の支援計画づくりに携わる。他にも,チームメンバーが複数の小グループに分かれて支援を行うこともあろう。たとえば技能訓練プログラムでは,あるスタッフが心理教育モジュールによる基礎的な会話能力の訓練を行い,あるスタッフが服薬管理指導を行い,あるスタッフが外出場面での適性行動訓練を行うなどである。個々の技能訓練を受け持つスタッフは,支援の方向を調整しあう必要がある。また,チームメンバーの1人が受け持つ支援であっても,効果的に実施されるためにはチーム全体の意見を取り入れるべきであろう。たとえば,メンバーの1人が家族教育と支援を受け持つ場合でも,全体的なリハビリテーション計画に沿う家族援助が展開するように,チーム全体と密に連携する必要がある。
 管理や組織心理学の専門家らは,一般的な作業チーム(work teams)と他の集団を区別する四つの特徴を挙げている。精神障害リハビリテーションチームにもこれらの特徴が見られる。

1.作業チームは,実際に顔をあわせての意思交換(face-to-face interaction)に特徴がある。リハビリテーションチームのメンバーは,同僚と個々に意思交換を行うことによって作業目標を達成する。
2.作業チームのメンバーは相互に影響しあう(mutually influence)。リハビリテーションチームのスタッフは,リーダーの指示を受け治療計画を実行するのではない。チームメンバーとリーダーは,利用者をパートナーとして,個別的リハビリテーション計画を作成し実施する。計画の実施には,チーム全員のまとまった努力を必要とする。
3.チームメンバーは,チームに属しているという意識(perceive they are members)がある。実際に,仕事上の自己認識は特定のチームへの帰属意識と深く関係する。リハビリテーションチームのメンバーの役割は,他の治療提供者の役割とはしばしば異なっている。
4.作業チームのメンバーは,目標や課題を共有する(share common goals and tasks)。精神障害リハビリテーションチームは,同僚のスタッフと連携し,リハビリテーション活動を構成するさまざまな援助を実施する。

 本書の第1章では,チームワークやプログラム開発に向けての教育方法や組織方法について,Patrick CorriganとStanley McCrackenが概説する。第2章ではHarrriet Lefleyが,リハビリテーション活動における平等意識の重要性や,プログラム開発における教育方法と組織方法を統合する重要性について述べる。第3章でDaniel Giffortは,組織心理学の文献からいくつかの概念を紹介し,スタッフ研修にはシステム論の考え方を取り入れるべきであると論じる。続く第4章と第5章では,組織心理学からのトピックスを論じる。第4章でGary Sluyterは,総合的な質の管理について検証するとともに,効果的なリハビリテーション事業との相関性について述べる。第5章では,Andrew GarmanとPatrick Corriganがチームワークにおける効果的なリーダーシップの役割を論じる。
 第6章と第7章では,積極的地域内処遇(assertive community treatment : ACT)に携わるスタッフ研修における基本的戦略について概説する。第6章では,Judith Cook,Terri Horton-OユConnell,Genevie Fitzgibbon,Pamela Steigmanが,近年実施されたACT援助者の研修に関する研究を検証する。第7章はPhyllis SolomonとJeffrey Draineがリハビリテーションチームにおける当事者スタッフの影響について整理する。本書の最後に,William Anthonyがリハビリテーション過程における技術の重要性について論じる。すなわち,スタッフ研修プログラムは精神障害リハビリテーションを実行するために必要な知識や技術に焦点を当てたものでなければならないと,われわれに想い起こさせる。
 臨床研究家はリハビリテーション方法の効果を検証し続けなければならないが,重い精神障害をもつ人々を支援するわれわれも同様に重要な課題に直面している。つまり,利用者のニーズに対応する援助を開発するために凝縮力のあるチームを作り上げなければならない。本書は,これらの目標を達成するための研修方法や組織化する方法について概説するものである。

編者 パトリック・W・コリガン
ダニエル・W・ギフォート