「監訳者あとがき」より

 本書は,Corrigan, P.W. & Giffort, D.W.編による“Building Teams and Programs for Effective Psychiatric Rehabilitation”(Jossey-Bass Inc., 1998)の全訳であり,原書は“New Directions for Mental Health Services”の第79巻にあたる。わが国の読者のために,アメリカ合衆国におけるリハビリテーションやチームワークの実際,聞き慣れないかもしれないリハビリテーションカウンセラー(CRC)について,付録として解説している。
 チームワークとは,ひとつの目標を達成するために多様な人々の知恵と力を合わせることである。
 対人サービス領域ばかりか,実はほとんどの人間活動がチームワークを必要としている。ことさらリハビリテーション領域では,障害のある人々の生活や人生を支援しようとするため,さまざまな分野の多様な職種の方々がともに活動することを欠かせない。近年わが国でもその必要性は意識されて,チームワークや連携協働が唱えられるが,一向に実効に至らないのはなぜであろうか。どうやらチームワークそのものに一定の工夫が必要と思われる。こうした実践的工夫が技術であり,身につけるために訓練や研修を必要とするものなのであろう。
 本書は,精神障害をもつ人々に対するリハビリテーション領域におけるチームワークについて,しかも特にチームワーク技術を研修することに焦点を当てている。世界的に見てもこれまでにない視点が記され,研修活動の効果研究報告も紹介されている。
 わが国では,チームワークの必要性は述べられているものの,実際にどのように工夫したらよいのか,技術レベルの参考図書がほとんどないのが現状である。精神障害リハビリテーション領域ばかりか多くの対人サービスにおけるチームワークについて,欧米ではすでに膨大な研究論文が蓄積されている。一方のわが国には,この種の研究がほとんど見あたらない。むしろ産業現場の組織論に優れた実践と報告がある。わが国の人々の情熱と金銭がこの間どこに流れていたのか象徴するような事態である。

 本書の内容について,監訳者の感想を交えながら紹介する。
 編者の1人であり,メッセージをいただいたCorrigan, P.W.は,全米に3カ所設けられた精神障害リハビリテーションセンターのひとつであるシカゴ大学における指導者である。本書でも述べられた双方向的研修事業(IST)を中心にして,広く精神障害リハビリテーションの世界的な指導者でもある。ISTの全貌は,近く邦訳が出版されるのでさらに詳細を学ぶことができる。活発で効果的なプログラム開発は,チームワークを研修することと同時に行われるべきだという主張は納得がいく。
 リハビリテーションには相当な割合で利用者への教育活動が含まれている。障害をもつ本人や家族に対するプログラムを考える際にも,この職員研修の視点と技術は応用可能である。慢性疾患をもつ患者において治療と生活が明確に分けられないのと同様に,リハビリテーションに携わる職員における研修と実践活動は,互いに重なり合いながら進展するのであろう。
 産業組織論の実践と工夫から,チームの類型論や質の管理について論じられている。対人サービスの領域にもようやく質が問われ,その具体的な対策が始まったのである。質の改善チームに用いられている問題解決技法も,集団で行うことがチームワークの研修につながるであろう。リハビリテーションとは,当事者の抱える生活の問題をいかに解決するかという発想に基づく実践活動なのだから,むしろチームが明確な目標を設定しやすい領域であろう。
 待望されながらも意外に是非が検討されていないリーダーシップ研修についても,試行が具体的に提案されている。リーダーシップを査定するための要因はだいぶわかりつつあるが,研修がはたして可能かどうかはこれから問われることになる。実に古くて新しい課題だが,一般産業領域ばかりでなく,われわれ対人サービス領域でも挑戦せざるを得ない段階に来ている。
 根拠に基づく臨床活動という側面では,積極的地域内処遇(ACT)の研修プログラムに関する効果研究が紹介されている。費用対効果,費用対効用,費用対便益を考慮した本当に役立つ研修を工夫するためにも,今後ますます求められる研究モデルとなっている。
 近年出現した革命的な動向であるプロシューマー(当事者スタッフ)とのチームワークについても,起こりうる問題が詳細に解説されている。精神障害をもちながらも他の人々にサービスを提供しようという当事者スタッフと,ともに一度でも活動した経験をもつと,健常者と同様の能力と健常者では為し得ない能力が存在することに気づく。しかし,総論賛成だけでなく,実際に対等の立場で同僚として働く場合には,人種に対する偏見と同様,けっこうさまざまな視点の変換が必要となるものである。

 さて,チームワークがそれほど意識化されていないわが国の現状を考慮して,あらためてチームワークに必要な原則を記しておく。なお,精神保健におけるチーム研究の概要は別稿を参照されたい(野中猛:精神障害リハビリテーションにおけるチームアプローチ概論.精神障害とリハビリテーション,3 (2) ; 88-97, 1999)。
 第1の要素は「目的・目標の共有」である。これがない限りチームは結成されないのだが,往々にして言語化されないまま,メンバーがそれぞれ勝手な目的・目標を目指していることが多い。リハビリテーションの場合は,利用者自身が選ぶその人の生活や人生が対象である。チームの知恵と力に乱れが生じるようならば,あらためて利用者を中心に意思を統一したい。また,活動の意義を確かめるために,利用者への成果がチームにフィードバックされる仕組みが必要となる。
 第2の要素は「相手の能力・こちらの能力」を知ることである。自分一人ではできないからチームを作るのであり,それぞれが相手にない能力を発揮することが要件である。役割分担によって楽になるかもしれないが,手抜きや依存によって楽になるわけではない。そのためには,相手の能力や限界を心得て,自分のもつ能力や限界を意識化しておかなければならない。一般にチームワーク上のトラブルは,相手に対する過剰な期待や,一方的な思いこみによる依存から生じることが多い。
 第3には「対等平等性・直接性」である。チームメンバーは目的に向けて平等であり,指揮命令系統があってもそれは役割であるとの認識が必要である。たとえ軍隊というチームであっても,敵に勝つという目的から反する場合は指揮者も処罰される。リーダーシップもひとつの機能であり,技術研修を要するものである。また,チームワークは単なる機能の結びつきだけではない。顔を合わせるという人間的な接触が存在することによってはじめて機能が分担される。リハビリテーションにおける連携も,制度で決まっているからと,電話や文書だけで連絡しても有効性が薄いのである。
 第4には「不足の感覚・工夫の意識」である。チームワークは作り上げようとする過程でもっとも有効に働く。チームワークに不足がなくなるときは,仲良しクラブになって目的が見失われているはずである。不断にチームワークを工夫する作業が求められる。たとえば,専門用語の使い方,役割分担の調整,事例検討会の継続,利用者からの評価などである。リハビリテーションという対人サービスの領域では,そのままでは問題が解決しない事例に出会うことでチームワークを見直す機会とすることができる。
 第5には「環境整備」である。意義や技術を強調するだけでは実行に限度がある。チームワークを支える環境の整備が求められる。すなわち,管理職の意識,組織運営の仕組み,制度上の保障,モデルの提示,研修の機会などが考えられる。人間の本質の一端として,仲間内の利益を考えて,変化することを嫌がるのであろうから,チームワークによって利益や賞賛が得られない限り,連携の工夫はいつのまにか消滅して形だけが残る。わが国のリハビリテーション領域では,チームワークや連携そのものに代価が支払われないばかりか,利用者の回復という成果も評価されず,単に世話をしているふりだけに対して経済保障がされるという制度に大きな問題があろう。

 本書出版を機会に,チームワークが意識化されること,特にそのための技術があり,しかも適切な研修が求められることが伝われば幸いである。それによって,実際にわが国の対人サービス領域でも有効なチームワークが実践され,ひいては精神障害リハビリテーションの質が向上し,利用者の回復に一歩でも資することを願うものである。
……(後略)
  2002年3月
  「日本リハビリテーション連携科学学会」第3回大会を終えた週に記す

監訳者 野中 猛