「訳者あとがき」より

 本書は,Dana N. Christencen, Jeffrey Todahl, William C. Barrett, Solution-Based Casework: An Introduction to Clinical and Case Management Skill in Casewotk Practiceの全訳書である。本書の題名を直訳すると,『解決基盤のケースワーク,ケースワーク実践における臨床的スキルとケースマネジメントスキル』ということになるが,本訳書では,内容も勘案して,『解決志向ケースワーク――臨床実践とケースマネジメント能力向上のために』とした。
 本書の内容を一言で述べると,本書(原著)の裏表紙に書かれているように,「児童福祉分野で,アセスメントとケースプランニングという複雑な仕事を素早く理解するためにデザインされたスキルを基盤とし,実践を志向したテキストである。問題に焦点づけられた再発予防モデル(薬物利用や暴力にかかわる仕事から取り入れたモデル)と解決に焦点を当てたモデル(ソリューション・フォーカスト・モデル,家族システム・セラピーから取り入れたモデル)をうまく統合することによって,著者たちは,治療システムで働いているすべての提供者が共通の目標に向かって働くための共通の概念枠組みを提供している」ということである。

 ……(中略)……ソーシャルワークにおける本書の位置や訳出する意義について考えることを簡潔に述べておきたい。
 本書は題名にもあるように,ケースワークの本である。したがって,本書に興味をもっていただけるのは,ソーシャルワーカーの人たちや社会福祉の研究者,学生の方たちを中心にして,心理カウンセラーの人たちとその研究者,学生にも興味をもっていただけるのではないかと思う。そのような人たちが本書を読まれてどのような感想を持たれるかはよくわからないが,この後書きを書いている監訳者の一人である杉本には,本書が近年ソーシャルワークの新しい考え方,例えば,ノーマライゼーションであるとか,パートナーシップ,あるいはエンパワメントやストレングス・アプローチといった考え方を実践に移す技法が分かりやすく解説されているように感じられた。これは今までの,どちらかと言えば,理屈中心で,難解なソーシャルワークのテキストにはない本書の特徴であるように思われる。これは本書を読んで最も強く感じたことである。
 ところで,近年の日本のソーシャルワーク教育,ソーシャルワーカーの養成は,社会福祉士と精神保健福祉士が国家資格化されたこともあり,両者の養成を中心に展開されている。この教育カリキュラムのベースはジェネラル・ソーシャルワークであり,かつての3分割されていた援助方法の統合が基礎になっている。これは個人から地域までを連続的に見通すことができるソーシャルワーカーを養成しようということであると思われる。これは当然に必要なことであり,ミクロな視点とマクロな視点を同時にもつことがソーシャルワークをカウンセリング等,個人を援助する他の専門職と区別する重要な点である。
 しかし,本書はこのような流れからすると,個人にのみ焦点を当てるケースワークという用語が題名に使われていることからも感じられるように,少し異質な感じがする本である。どちらかというと臨床ソーシャルワーク,言い換えると心理的な色彩の強いソーシャルワークの本である。
 現在のソーシャルワークは一種の閉塞状態に陥っているような気がする。ここ数年間に社会福祉を標榜する大学や専門学校がいっぱいでき,社会福祉を学ぶ学生もどんどんと増加した。まるで社会福祉に追い風が吹いたようであった。しかし,現実を直視してみると,多くの人材が必要なのは介護を行う介護福祉士であって,社会福祉士等のソーシャルワーカーはそれほど必要ではないのが現実である。社会福祉学を学ぶ学生にとってソーシャルワーカーになるのは狭き門を通らなければならないのである。
 このような動向のなかで,分かれてしまったソーシャルワークと介護を再度合体させようという意見もある。それも,このソーシャルワークの閉塞状態を打ち破る方向だと思われる。
 しかし,もう一つの方向は,一人ひとりのソーシャルワーカーがしっかりとした個別援助の力をつけることではないかと思うのである。本書はそのような意図をもって訳出したものである。先にも書いたように,本書には具体的な技法が分かりやすく,いっぱい書かれている。本書の読者には,それらの技法をしっかりと身につけていただきたいと思う。
……(後略)……

訳者を代表して 杉本敏夫