「はじめに」より


知的障害相談分野における家族の扱い

 障害の問題は生涯にわたるものです。また,本人だけでなく家族にとっても大きな問題となります。このような視点を大切にして編集したのが本書です。
 これまで,知的障害相談の分野において,家族が援助の対象として語られることは少なかったように思います。障害と言えば,早期発見・療育システムの構築が話題の中心です。治療や療育は,当然,障害児に焦点をあてたものです。また,援助者の視点は母子関係中心であり,母親のあり方や関わり方をテーマにしたものが主流となっています。しかし,家族システム論の立場からは,「母親だけが問題に取り組む」「母親の責任に帰する」というパターンが顕著に見られるということになります。母親中心といったパターンの維持に,相談機関や療育機関が一役買っていたと言うことができるでしょう。
 家族全体に目を向けたり,働きかけることがおろそかになっているのではないだろうかという問いかけが,本書の出発点となっています。

知的障害児者と暮らす家族への援助の方向性

 私たちが考えている障害相談の家族援助は,知的障害そのものを問題として定義したところからの出発ではありません。障害を治療したり,障害そのものを解決しようというものではないということです。
 しかし,現実生活場面に目を向けると,知的障害児者とともに暮らす家族はさまざまな困難や苦労・大変さ(生活のしづらさ)を抱えているのも事実です。また,障害にまつわる問題が二次的・三次的に起こることがあります。それだけにいろいろな問題に直面することにもなります。
 相談として出会った際には,家族が自分たちの問題解決力を育てていけることを目指し,援助したいと考えています。そこでの家族の体験は,将来起こりうるさまざまな問題を少しでも上手にアレンジしていけることにもつながるでしょう。

福祉の大きな変革と家族理解・家族援助

 福祉の枠組み自体が措置制度から支援費(契約)制度へと大きく変革します。また,福祉の動向は施設福祉から在宅福祉・地域ネットワークへと変化しつつあります。これまで以上に家族支援・地域生活支援が求められる時代になります。
 措置制度から支援費制度への移行に伴い,相談業務の重要性や充実が強調されています。「より身近な地域での相談を!」と動きも始まっています。もちろん,児童相談所や知的障害者更生相談所などとの連携は言うまでもありません。また,地域での相談が充実すれば,障害にまつわる相談は児童相談所や知的障害者更生相談所の手を離れていく時代がいずれやってくるかもしれません。
 しかし,障害の問題に対応する相談機関がどこであれ,家族理解が援助の第一歩であることには間違いありません。家族全体を視野に入れた援助も必要です。家族だけで取り組むといった解決パターンから地域システムも視野に入れた援助(地域ネットワークの構築)への展開も大切になってくることと思われます。
 そのような流れも視野に入れながら,知的障害相談における家族援助の実践をまとめています。

本書の構成

 第一部と第二部は家族理解と援助にまつわる総論です。特に,第一部は知的障害児者と暮らす家族の構造的な理解を基本にまとめてあります。援助のポイントに関しては,原理・原則的なものにとどめています。それを補うのが第二部です。家族への援助についての具体的なさまざまな取り組みや今後の課題を紹介しています。
 第三部は乳幼児期から思春期・青年期まで,子どもの成長にあわせた事例の展開となっています。これらは,相談現場からの発信ということに重きをおき,公的福祉臨床機関の家族援助の取り組みの実際を紹介するものです。
 なお,紙面の限りもあり,知的発達障害に関して,あらゆる事例を網羅しているわけではありません。特に,自閉性障害やADHDなど,それぞれの障害に限定した専門書が発刊されている分野については,それらに譲ることにしました。成人期以降にもさまざまな課題がありますが,成人期以降は本人支援が大きなテーマとなるでしょう。本書では家族援助を中心テーマにしましたので,青年期までの取り組みの事例にとどめています。
 併せて,第三部では障害と虐待問題に対しての取り組みを紹介することにしました。子ども虐待が大きな社会問題になっています。虐待の背景の一つに子どもの育てにくさが見られます。そして,多くの場合,育てにくさには障害の問題が絡んでいます。報道される事例の中には,子どもの障害の問題が見え隠れしている場合があります。しかし,児童虐待に関する書物の中で障害の問題はあまり多くは語られていません。
 第四部は編者によるポストセッションとしました。編者の経験を踏まえ,フリーに意見交換をしています。ぜひ,セッションに参加しているつもりで読んで下さい。
 随所にマンガを挿入することにしました。編者の一人であり,マンガ家の肩書きも持つ団士郎が実際に出会った事例をヒントに描きました。知的障害の問題について,視覚刺激を通して,いろいろなイメージを膨らませ,理解を深めていただけることを願っています。
 本書は保健・福祉の分野をはじめ,教育や医療など,知的障害にまつわるさまざまな相談現場の方々に活用していただきたいという思いを込めて,できるだけ平易な言葉を使用しています。福祉制度の大きな変革期に際し,本書の出版が,知的障害児者と暮らす家族への援助を考える機会になることを願っています。
……(後略)