あとがき

 殺人者の脳を検査すると,異常所見が高率に発見されるという事実に気づき,これに「脳器質性性格変化症状群(MiBOCCS)」という名前をつけて学会発表をしてみたのが7年ほど前のことだった。
 ところで近年,重大な殺人事件の犯人に対する精神鑑定で,鑑定人の間で診断が相違するケースが多く見られるようになった。
 私はこの現象の原因を,殺人者の精神病理というものが病院臨床で日常診療する患者たちの精神病理と似て非なるものだからではないか,と考えた。
 殺人者には,「殺人者精神病」とでもいうような診断名を考え,一疾病概念と見なすべきで,そうすれば精神医学的な診断の信頼性も確保され,また彼らの医学的治療法の開発や再犯防止のための研究も効率的に進められるのではないか。
 この本の序章と第1章は,上記のような発想を記したものである。
 ところで本書を編集する過程で,上のような概念化の学問的な根拠となるような論文を,自分がここ数年かなり書いていることに気付いた。そこで,これらを選んで第3章以降に収録することにした。その中には,精神科医を対象に書いた論文も,一般医や法律家向けに書いた文章も含まれている。
 顧みると,本書は30年以上にわたって精神鑑定を続けてきた筆者の,多くの殺人者たちとのかかわりから生まれたものである。
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2002年夏 著者 福島 章