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序文
千里の道も一歩から

 医学や公衆衛生学の進歩は,例えば感染症予防に関しては抗生物質やワクチンの発見,糖尿病にはインスリン,癌では放射線療法や化学療法,プロテアーゼインヒビターを標的にしたヒトHIVウィルスの分離のように,普通は何らかの科学的な発見やブレイクスルーを通じて得られるものである。しかしながら,既存の知識を新たなヘルスケアのサービスや手法の中で応用する方法を見出すことで達成される同じくらい重要な進歩が,治療上極めて重要な影響をもたらすことがある。単純な手洗いを含む無菌操作や,普遍的な妊婦管理の普及,心肺蘇生処置のコード化などの発明は莫大な恩恵をもたらした。精神疾患患者のケアは,さまざまな向精神薬を始めとする多数の予期しなかった発見と合理的な発見の両者から実に多くの恩恵を得てきたが,サービスや手法に関する極めて重大な革新は稀であった。このような状況の中で,本書で具体的に示されている情報の重要性と本書の出版という画期的な出来事は大変時宜を得たものであると同時に,高く評価されるものである。以上のとおり本書は,公的なメンタルヘルスとそのサービス提供システムに幅広く息の長い影響をもたらす独創性に富んだ仕事であると結論づけねばならない。
 早期精神病という概念や研究上の焦点が1980年代におけるCrowやJohnstone, Kane, Liebermanの仕事において,あるいはBeiserやMayのより初期における画期的な仕事において始まったとしても,あるいはまたM. BleulerやCiompi, Huberによる病歴研究からあらかじめ予測されていたものであるとしても,あるいはKraepelinの早発性痴呆の記載に基礎を置く進行と解体の概念の中に潜在していたのであろうとも,本書の主題である早期発見と早期介入のモデルがその頂点を象徴していることは疑いのないことである。McGorryとEdwardsとその同僚たちは,関連する科学的研究とサービス提供システムとメンタルヘルスに対する政策を,科学的研究結果を臨床的実践に翻訳することをいつも妨げる遅延という隘路を軽減することにより一体化するというパイオニア的な努力を成し遂げた。実際に彼らの努力は研究領域を動かし刺激しただけでなく,公式な組織(国際早期精神病学会)や福音伝道者たちに時に興奮を呼び起こすような宣言文(第9章参照)という正真正銘の動きを呼び起こした。しかしこの計画の心臓部では,あらゆる政治的,イデオロギー的装飾を取り去ると,概念的モデルや組織だった計画,経験の山が最高のタイミングを見計らいつつすでに準備されている。したがって本書の目的は『早期精神病サービスを立ち上げるためのガイド』を提供するものである。
 このような早期精神病サービスの成り行きを想像すると胸が躍る。それには新しい臨床サービスのためのインフラストラクチャーや,メンタルヘルス・ケア専門家の新たなトレーニング・モデルが必要になるだろう。それにも増して最も重要なことは精神障害を持っている患者に対してより早くより良好な治療を提供することである。それによりこれらの患者が従来受けていた治療よりもずっと良好な予後がもたらされ,かれらの疾患の罹病率の減少がほぼ確実にもたらされるであろう。これはメンタルヘルス・ケアにおいて真に大きな前進と言えるものであり,「地球の反対側の」我々の仲間がその業績を評価され賞賛されるに値するものとなるだろう。

アメリカ,ノースカロライナ州チャペル・ヒル/ノースカロライナ大学医学部 
Jeffrey A. Lieberman, MD

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