はじめに

 本書,“Crisis Intervention Book2 : The Practitionerユs Sourcebook for Brief Therapy”は,もともと,1965年に出版され,引き続く要望によって何度か再版されてきた私たちの最初の著書『危機介入:分野別論文』の続編として役立つよう,最新の短期危機療法の展開を知りたいたくさんの学生や実践家の要望に応えたものです。
 この巻を準備しつつ私たちは自問しました。「短期危機療法のコンセプトや技法の“職人芸的手腕”とでもいえる情報を,いかに読者に提供できるか」と。私たちは目標として,最新の危機介入理論に関する概論を入れ,また多様な実践場面で時間制約的な危機療法を受けるクライエントへの理論的臨床的応用の章を入れたハンドブックにすることを決めました。臨床ソーシャルワーカー,臨床心理学者,精神科医や他の精神保健専門家による短期危機治療の利用が増えていることを考慮に入れて,私たちは多次元の学際的視座をも含めたいと思いました。そして,“職人芸的手腕”のような仕事には治療的アプローチと同じく予防的アプローチも含まれるはずだと思いました。
 したがって,本書は3つのパートに分かれています。パートⅠでは個人,家族,グループへの危機治療アプローチに関する進展を概観し,また短期危機サービスの発展に貢献した多方面の知識基盤の分析を提供しています。本書の中心であるパートⅡは,多様な領域で危機介入を行っているエキスパートによって書かれた5章から成り立っています。これらはPTSD,近親姦やわいせつ行為,配偶者間暴力などに関する深い情報を提供しています。しかしながら,危機介入に関するいかなる著作も,危機にさらされている人々に対する予防的介入問題を置いたままでは完成しないでしょう。これらの問題はパートⅢで考えられており,そこでは危機コンサルテーション,社会的サポート介入のインパクトなどに焦点をあてています。
 各著者へのお願いとして,私たちはそれぞれの章に次のような課題を入れてくれるよう頼みました。「特定される危機の重大さとはどのようなものとして考えられるか」「関連する文献や調査には何があるか」「有効なサービスをもってクライエントを援助しようとしている最前線の実践家に,どのようなガイドラインが提供できるか」です。各著者は,危機治療の専門家が何を言い,考え,行うかを明確に示したこの実践的小論において自らの考えを書いてくれています。
 これらの事例には,「矯正的」危機介入(クライエントを危機前の安定状態あるいはより高度な社会・心理的機能状態に戻すこと),「保護的」危機介入(たとえばレイプや暴力の被害者,配偶者間暴力),「予防的」危機介入(たとえば災害,離婚,悲嘆,障害状況などにおける弱者の危機を避ける)が書かれています。
 各著者の技術的均質性に関してはいかなる強制も加えられていません。共通の知識基盤や専門的価値志向を共有しているとはいえ,各著者が矛盾・対立に全くひるまなかったことを,まことにうれしく思っています。
 多分,心理療法の歴史において,今日の風潮ほど,新しい理論,理論発展の諸形式,あるいは臨床実践における伝統的治療方法や技術から改めて離脱することを促進する時代はないでしょう。このハンドブックは実践を改良したい特定の領域にむけて書かれているだけでなく,多くの意義ある現代的な精神保健実践の傾向を反映してもいます。この傾向とは,心理療法の単一理論を使うのではなく選択的,複数的視座をもつ傾向であり,多次元の学際的協力や多次元の専門的活動の傾向であり,相互交流的な治療アプローチ(カップル,家族,集団療法)に沿い,個人治療の排他的孤立からは離脱するという傾向であり,施設内ケアより地域社会のサポート・システムを活用する傾向であり,根本的な予防――レトリックでなくより現実的事項を扱う――の傾向,などを含みます。本書の最重要事は,いつ終わるかわからない,時間に制限のないアプローチではなく,心理療法における計画された簡潔さの傾向に置かれています。このような傾向は経済的状況のせいだけでなく,クライエントによりよいサービスをしようとするときの現実に影響されています。このようなクライエントの多くは長期より短期心理療法を求め,さらに自分では克服できないストレスを解決するためのサービスを求めています。
 本書は実践家による実践家のための本です。このことを私たちは誇りに思っています。……(後略)

 編   者