「訳者あとがき」より

 「この親とどんな面接をすれば,虐待を止めさせられるのか」「この親にどんな言葉をかければ,子育てについての建設的な話ができるのか」「このケースでいったい私に何ができるのか」。虐待ケースに関わる相談員の多くがこのような疑問を抱えたことがあるでしょう。本書はその疑問への1つの答えとなる具体的な面接法・援助法を示します。

 本書の原題にある「Child Protective Services:CPS,子ども保護サービス」は,アメリカの虐待やネグレクトを受けている子どもへの援助・対策を行う機関(日本でこの役割を担うのは児童相談所)です。
 1990年代半ばにミシガン州CPSで,解決志向アプローチの創始者の1人であるInsoo Kim Bergが,児童福祉事務所長であり現場を熟知しているSusan Kellyと共に,ソリューションの立場から「子ども保護サービス」の援助法の改革を試みました。本書はその成果です。インスーは相談員の面接や家庭訪問に同行し,現場ですぐに使うことができ,虐待を止めさせ親を適切な養育に導くのに有効な援助法を明確にしました。
 第1部でインスーがミシガン州CPSと関わるようになったいきさつ,子ども虐待対策の歴史的変遷,より有効な虐待対策のための提案などが述べられています。第2部では「子ども保護サービスの実際」として,解決志向アプローチを土台にした虐待通報の受け方,家庭訪問による調査,終結,子どもを家庭から引き離す際の面接法・援助法を豊富な会話例とともに具体的に示しています(すぐに使える面接法に興味をお持ちの方は第2部から読むことをおすすめします)。

 「解決志向アプローチ」はSteve de ShazerとInsoo Kim Bergを中心にして作られたアプローチです。面接の成功例に注目し,そこから解決に有効な要素を抽出して構成された面接モデルです。本書の援助法・面接法はこれによって行われています。この面接の進め方についてさらに詳しくお知りになりたい方は,ディヤングとバーグ著『解決のための面接技法〈第2版〉』(金剛出版),もしくは,カウンセリングSoFT(Fax : 087-851-0430)制作のインスーの面接ビデオ日本語版などをご覧ください。
 このアプローチでは,相談員が専門的知識を基にして助言を与えるのではなく,クライアントに長所や資源があることを前提にして,クライアントを尊重し彼らの力(長所や資源)に焦点を合わせることにより,クライアント自身が自らの解決を見つけ出すように援助します。こうすることによりクライアントが自分の生活に対して責任と自信をもつようになるので,クライアントを中心にした援助が可能となります。相談員が指導しないので,クライアントは相談員に依存も抵抗もすることなく,相談員の援助を受けながら自ら解決を作り上げます。
 クライアントの力を活用するこのアプローチを使えば,相談員が一人であくせくすることも非協力的なクライアントに腹をたてることもなく,クライアントと協働した面接を進めやすくなります。また過去の問題を扱う必要がなく,現在の生活の中で変えることができる小さなゴールを目指すので,比較的短期間でケースが終結します。

 日本の児童相談所は18歳未満の子どもに関わるあらゆる相談を受けています。相談員は膨大な数のケースを抱えながらも緊急事態にも時間のかかる難しいケースにも対応しています。このような状況の中でさらに虐待対策を行う公的機関としてより有効な活動を期待されています。なかでも虐待をした親への支援はこれから取り組まなければならない大きな課題でしょう。児童虐待防止法の見直しを行っている厚生労働省専門委員会の報告書にも「虐待を受けた子どもの保護や支援の充実に加え,保護者に対する支援を通じ,家族の再統合や家族の養育機能の再生・強化を視野に入れた総合的な支援を用意することが必要である」と明記されています。ではいったいどうやって親を支援していくのか? 本書には,相談員が親を尊重して(問題ではなく)長所と資源に目を向けることによって,親が相談員と協働しながら子どものために最善のことを決めていくための面接技法が示されています。またそのような援助ができる相談員養成のために,上司が部下を尊重して意見を聞き,失敗ではなく成功に目を向けるといった相談機関内の改革についても提案されています。

……(中略)……

虐待をした親でも,自分が本来もっている力を引き出してくれる援助を受けると,子どもと笑い合い親子が一緒に成長していけるでしょう。そのような家族に有益な援助実践の手引きとして本書が活用されることを願っています。
2003年10月

訳者を代表して 桐田 弘江