「監訳者あとがき」より

 本書は,英文タイトル名“Handbook of Treatment for Eating Disorders, 2nd Edition, edited by David M. Garner & Paul E. Garfinkel”の全訳です。九州大学心療内科の内分泌研究班のメンバーを中心に,大学病院の病棟で摂食障害治療の最中にあったスタッフが加わって翻訳したものです。この翻訳は,ニューヨークで開催された第8回国際摂食障害会議に研究班のメンバーが出席した折,“治療に真に役立つ書物”をと探していたところ,参加者から,“このハンドブックがベストだ”と強く薦められたことがきっかけでした。
 編者のD・M・ガーナーは,EATやEDI心理質問紙によって,この分野では広く知られた心理学者です。現在は米国オハイオ州リバーセンター・クリニックで,チーム治療の中心として精力的に活動しています。P・E・ガーフィンケルは,トロント大学の精神科教授在任中,第31回日本心身医学会総会で来日し,“Eating Disorders―The Pathogenesis of Eating Disorders: Implications for Treatments”で摂食障害について特別講演をしています。第9回国際摂食障害会議のLifetime Achievement賞を受賞しているほどの研究者ですが,その受賞記念講演では現在の北米の医療保険制度による摂食障害治療に対する弊害について,厳しく警告を発していたことが印象的でした。現在はトロントのアディクション&メンタルヘルスセンターの所長兼理事長をしています。
 さて,本書は,手にとってみると明らかなように摂食障害の歴史から病気の成り立ち,加えて,臨床知見,治療技法,さらには,その基本的考え方に至るまで,すべての領域にわたってその研究分野の第一人者の手によって書かれています。主要な治療法は,患者とのリアルなやり取りまでもが紹介されており,しかも各治療法の解説は,しっかりとした文献に裏うちされていることが特徴です。マニュアル書きの構成にしてあることから,読者には,編者が述べているように“治療のやり方が一歩一歩記された青写真”を得ることが可能となっています。治療でしばしば陥る落とし穴がいかなるものか,また,それにどう向き合えば良いのか,深い治療経験がなければ書くことのできない内容です。
 たとえば,ミネソタの半飢餓実験の記録の章をひも解くと,飢餓という身体変化が被験者のこころに強大な影響を与えている様子が詳細に描写されています。栄養リハビリテーションの重要性が強調されているのも本書の特徴です。加えて,病因に対する重要な心理学的および生物学的因子の同定,さらには治療結果の経験的研究など,他にも非常に貴重な資料が含まれています。本書は,単なる摂食障害治療“ハンドブック”の域を超えており,正に,摂食障害の診断と治療に携わるすべての医学・医療関係者の教育,訓練,および臨床の質の向上のための“テキストブック”と言えるでしょう。
 編者のガーナーが,本書の出版に寄せて記しているように,確かに,日本文化の下,日本人に合った治療法があるかも知れません。山登りにたとえるなら,日本の山に登るのに無理に欧米のそれをまねる必要はないでしょう。しかし,山は異なっていても山登りの基本は何処も同じであるはずです。私たち独自の批評眼を通して,彼らが示した治療法を吟味して欲しい,というガーナーの言葉は,控えめですが含蓄に富むものです。本書の出版が,いつか将来,彼の期待に応えることの一助になればと,密かに期待しています。
 本書では,診断名は,あえてAnorexia NervosaとBulimia Nervosaと英語表記のままにしました。AnorexicsやBulimicsなど,どうしても日本語訳が必要なものは,拒食症,過食症などとしています。その方が,日本語としてより適当と考えたからです。
……(後略)……

平成15年 秋 小牧 元