宮地尚子編

トラウマとジェンダー
臨床からの声

A5判 276頁 定価(本体3,800円+税) 2004年3月刊


ISBN978-4-7724-0815-8

 「トラウマ」と「ジェンダー」。どちらも概念としては新しいものだが,人々の行動に深く影響をおよぼし,心理学,哲学や文学,人類学や社会学などにおいて繰り返しとりあげられてきたテーマである。これら2つが交差する領域は広くかつ深く,検討すべき理論もさまざまな分野にわたり,はてしない作業となる。その膨大な作業の端緒として,ここではトラウマをめぐる精神医学や心理学の臨床に,ジェンダーの視点を導入することに最大の重点をおいた。
 本書では,トラウマとジェンダーが重なる問題として,対人的なトラウマ,それも親密な関係における長期反復的なトラウマであるドメスティック・バイオレンスや性暴力,児童虐待の事例が多く取り上げられ,議論されているが,これらは社会的にも対応に危急を要するテーマでもある。臨床にすぐ役立つ,ジェンダー・センシティブなアプローチの要点が提示され,さらに,臨床現場にトラウマとジェンダーの視点をとり入れることで,具体的にクライエントの何を見,どのような働きかけをし,どんなことに気を配るかが事例検討で明らかにされている。
 ジェンダーを問うことは,日頃意識化していないことをさせられ,これまでよりどころにしてきた価値観が問われるなど,自分自身が揺らぐ経験になるが,同時にクライエントへの新たな気づきが確実に増え,臨床の枠が広がり奥行きが出てくるだろう。トラウマを負った人により良質なケアを提供するために,こうした視点が臨床の現場においていかに必要となり,また助けとなるかを,第一線で活躍する各執筆者が真摯に論じた。最終章では中井久夫氏が,自身の濃密な臨床経験に引きつけて「トラウマとジェンダー」を語っている。
 これまで手を着けられてこなかった領域に鋭く切り込んだ,画期的な書である。

おもな目次

      編者まえがき:宮地尚子

    第Ⅰ部 語られてこなかったことを語る

      第1章 総論:トラウマとジェンダーはいかに結びついているか:宮地尚子
      第2章 性暴力被害のセクシュアリティにおよぼす影響とその回復過程:白川美也子
      第3章 男性の性被害とジェンダー:岩崎直子
      第4章 中絶のトラウマ・ケア:嶺 輝子

    第Ⅱ部 既存の理論を再考する

      第5章 心的トラウマと子どもの臨床―母性というジェンダーの文脈―:紀平省悟
      第6章 非行・犯罪領域におけるジェンダーとトラウマ―非行少年の被害体験とDV加害者の対象関係を中心に―:中島啓之
      第7章 解離性障害,外傷性精神障害における性差はあるのか?:大矢 大
      第8章 事例検討1―トラウマとジェンダーの視点からのアプローチで改善をみせた女性―
      第9章 事例検討2―DV被害後,精神科を受診した2人の女性―

    第Ⅲ部 異なる立場から見る

      第10章 法とジェンダー―ある少女の事例から―:後藤弘子
      第11章 フェミニスト・カウンセリングの現場から:周藤由美子
      第12章 解離性同一性障害当事者から:かなえ,M.
      第13章 中井久夫氏インタビュー―トラウマとジェンダーを語る―:聞き手 宮地尚子

      編者あとがき:宮地尚子