「序  文」より

―障害者自身が「地域で生活する技術」を宿泊して訓練し獲得することと,その支援の重要性―

 1988(昭和63)年に精神衛生法が精神保健法に変わり,さらに精神保健福祉法へと改正され,精神障害者を取り巻く状況は大きく変化してきたと言われております。
 私は精神衛生法の時代に精神科ソーシャルワーカーとして単科の精神病院に採用され,めまぐるしく変わる法律や事態に戸惑いながら,精神保健福祉センター,保健所,援護寮(現在の生活訓練施設)と職場は移りましたが,一貫して精神障害者の医療・福祉の現場で働いてまいりました。そこで感じたのは,たしかに法律が変わり社会復帰施設の数は増えましたが,そのことで利益(?)を得たのは精神障害者でもごく少数の人々で,大多数の方々は退院のめども立たず20年前と同じように精神病院に社会的入院をされているという事実です。また運よく退院できた方々も長期の入院生活や療養生活で社会から隔離され,自立のための生活技術や経験の不足から,強力な援助なしでは生活できない状態に陥っています。
 わが国の精神障害者医療・福祉の歴史を概観しますと,戦前は私宅監置,戦後から精神衛生法の改正までは病院に隔離という,場所は違っていても一貫して地域社会と離しておくことに主眼が置かれました。その後わが国の精神障害者施策の問題点が国際的な非難を受け,一転精神保健法から精神保健福祉法の時代になり,地域でケアすることがよしとされる時代になりました。これは大変よいことですが,今度は通所施設や医療デイケアから「先に行けない」「将来のあてなく長期利用している」といった広義の「施設症」が心配されます。それらの人々の多くは高齢の家族と同居しており,親亡き後の地域生活の維持も心配されています。
 そこで近年,生活「支援」(サポート)のための施設・制度として,地域生活支援センター,ホームヘルパー派遣制度などが制度化され,少しずつ充実する気配は見えてきました。さらに地域サポートシステムの重要性に対する議論や論文もさかんに提示されています。また通所型のリハビリテーション施設であるデイケアなどについては近年専門の学会も開催され,熱心な実践報告がされるようになってまいりました。デイケア運営のマニュアル本も数種類出版されています。
 しかしながら,利用者側からすると「地域で生活する技術」の学び方,訓練の仕方,支援者側からすると,「地域で生活する技術」獲得への支援法について著作はごく少数です。
 さらに生活訓練施設のような入所型のリハビリテーション施設が,利用者に対してどのようなサービスを提供すべきなのか,また提供できるかについてのわが国における研究・実践報告は少数です。それらに対する専門の著作もほとんど出版されていません。欧米をはじめとする精神障害者福祉先進国では,入所型のリハビリテーション施設やグループホームなどの住居提供サービスが,精神障害者ケアの重要な中心となっており,数多くの論文,実践報告がなされているのとは対照的です(本文でも述べましたが,わが国の場合,家族同居という形での地域生活が現状主流をなしており,家族が福祉サービスの含み資産として認識されているため,重要視されてこなかったといった指摘もできるでしょう)。これらから,入所型のリハビリテーション施設や住居提供サービス軽視の傾向が,ややあるように思われてなりません。
 この本では,生活訓練施設(援護寮),入所授産施設,共同住居,グループホームまで含めた宿泊型の社会復帰施設や住居提供サービスを総称して「宿泊訓練施設」と呼ぶことにします。さらにこれらが単なる「受け皿」や「宿泊先」ではなく,「地域で生活する技術」を獲得するという積極的なリハビリテーションの場(生活訓練の場),さらにそれを踏まえて「サポートシステム」の中心機関になりうることを提示したいと考えております。
これは,援助者が「当事者の再発予防」といった消極的な関わりから,「当事者の社会参加実現」という積極的な関わりへの導入になると考えます。
 この本では,精神障害者が地域生活を送るための技術や,支援法,リハビリテーションについて,その基礎となる理論,考え方,実践例などを紹介しています。宿泊訓練施設,特に生活訓練施設(援護寮)を中心とした記述となっていますが,病院や通所型施設・機関でも応用いただけると考えます。

齋藤敏靖