まえがき

村瀬嘉代子

 人を援助する営みについて考えるとき、自ずと視点を定め、思考の展開をある軸(援助に必要なことがらの特性や援助の方法を考えていくための――)にそって進めていく、ということが通常のありかたであろう。いわゆる感覚的、断片的というのではなく、いくつかの軸によって成り立つ構造があって、今注目している現象、あるいは討議されている事柄は、そういう構造のどういう文脈のなかに位置付いているのかという認識は必須である。
 ただ、この軸も設定の仕方はさまざまに考えられる。もっとも本質的というか基本的に捉えると、本書で青木省三氏が述べるような時間軸と空間軸ということになろう。通常は焦点を絞り、援助目標を特定することなどから、軸は具体的に分化したものとなる。臨床場面でクライエントの必要性にきめ細かく添って応えようとしていくには、軸は多層にわたり、さまざまな層にある軸はまたいろいろ分岐していく、ということになる。こう考えてくると、心理的援助を営みとする者は、あらゆることに開かれた関心をもって、新鮮に感動し、受け止める姿勢、 受け取ったことについて、自分の内にある予め持っている思考の準拠枠や知見に照合してよく考えること、照合してもわからないことをむしろ大切にして、そのわからなさを抱えて、その不確定さに耐えていくことがもとめられよう。わからなさを抱えつつ、さらに知見や思考のための準拠枠を増やす努力を続けることで、クライエントの理解もより的確なものになっていくのであろう。
 このように心理臨床にかかわる軸は限りなく多くあることになるが、ことに、狭義の人間関係やサイコダイナミックスにかかわる軸ばかりでなく、人には生活があって、これがこころのあり方を大きく裏打ちしていることを考えると、環境要因の大切さを指摘せねばならない。食物や住まい、居住地域の特性、そのクライエントの生きている文化的・社会的背景、そういう視点から、人のこころの治癒と成長について掘り下げた検討が必要だと思われる。今回、生活空間や都市計画といった視点も当初、本書の構成に取り入れて考えていたが、諸般の事情で、それらの領域から、人のこころへの援助を考えるということは、次の課題とすることにした。昨今、関係性ということにもっぱら討論の焦点が当てられている。確かにこのことは基本的に重要であるが、さらに歩を進めて、関係性を包む要因、関係性を促進するものとしての要因について、視野を広げよい意味での学際性をもって、心理的援助について検討をすることが必要である、と考えている。
 スクールカウンセラー活動、被害者支援活動、高齢者支援、子育て支援など、心理臨床の活動領域が広がるにつれ、心理的援助のパラダイムも従来の面接室内の一対一の心理臨床モデルから、展開が生じてきている。クライエントの必要とすることにより的確に応えるために、伝統や基本を大切にしながらも、現実の要請に添うべく柔軟な思考・実践の展開を行っていきたい、と考えている。