日本語版あとがき

“The Batterer as Parent”の日本語版である本書は,ジャパン・ソサエティが主催した「日米女性リーダー交流プロジェクト」の成果として,(財)アジア女性交流・研究フォーラム,(財)せんだい男女共同参画財団,(財)福島県青少年育成・男女共生推進機構,(財)横浜市女性協会の四つの組織が共同で企画したものです。
 本書は,著者の臨床経験にもとづいたDV加害者の親としての行動についての論考です。DV加害者の行動にスポットライトを当てることにより,DVが起きている家族という「多面体」にこれまでとは違う角度から光が射しこみ,DV加害者が家族のなかで有害な波紋を広げていく様子が浮き彫りになります。第3章で紹介されているエピソードは,著者が実際にかかわった複数の事例を組み合わせて構成されたものですが,DV加害者が直接的な暴力だけでなく,母親の権威をないがしろにする,特定の子どもを自分の味方につけて家族のなかに分裂の種をまくといった行動を通して,日常生活のすみずみにまで影響を及ぼす様子が描き出されています。あたかもその場に居合わせたかのように感じた読者も多いのではないでしょうか。このエピソードから,不安と緊張にさらされて体の不調を訴えたり,学校で不適応を起こす子どもたちの問題の原因が,実はDV加害者の行動にあることが読み取れます。DVと子どもへの虐待を別個の問題としてではなく,「加害者としての親が家族機能に与える影響」という包括的な視点から論じている点が,本書の新しさと言えるでしょう。
 本書のもう一つの特色は,両親が別れればDVにさらされた子どものトラウマは解消するという誤解を解くために,別居後の問題も取り上げていることです。親権,面接交渉権,養育費をめぐる訴訟に,親権評定者や訴訟のための後見人としてかかわった経験から,著者は離婚のプロセス自体のなかに,加害者による力と支配が持ち込まれがちであると指摘しています。日本には「監督つき面会」という制度がなく,面接交渉権のあり方も合衆国とは異なる面があります。しかし,加害者が子どもに与えるリスクの評価や親権決定において考慮すべき事柄など,両国の制度の違いを越えて参考になる点は多いと考えられます。
 本書の企画を進めている折しも,日本では「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」と「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」が改正され,子どもへの虐待とDVが重なり合う領域に対する法的対応が整えられようとしています。改正児童虐待防止法では子どもの目の前での配偶者に対する暴力は子どもへの心理的虐待にあたると定義され,一方,改正DV防止法では保護命令の範囲が被害者と同居する子どもに拡げられました。児童虐待防止とDV防止という両方のアプローチが同じ問題に行き着いたと言えるでしょう。このような状況のなかで,日本語版出版はまさに時宜にかなったものと考えています。
 日本語版は幾島幸子さんの卓越した翻訳により,読みやすくわかりやすい文章となりました。DVにさらされた子どもと被害女性の支援の現場で,ぜひ本書を活用して欲しいと願っています。

2004年5月   【翻訳企画】(財)アジア女性交流・研究フォーラム
(財)せんだい男女共同参画財団
(財)福島県青少年育成・男女共生推進機構
(財)横浜市女性協会