はじめに

 本書は,2001年11月2日〜4日の全3日間,アジア太平洋トレードセンター(大阪)にて行われた「第2回環太平洋ブリーフサイコセラピー会議(日本ブリーフサイコセラピー学会主催 大会長:児島達美)の概要報告である。会議当日は,10数カ国からの海外からの参加者を含め,参加者総数1,000名を超え,立場を異にするさまざまな臨床家の集まりとしては,これまでに見られなかった会議であると思われる。ただ,すでに2年以上の時間を経た後にこのように公刊されることとなったのは,編集作業のためで,この点については編集担当者の怠慢によるものとご容赦いただきたい。
 読者のために,まずお断りしておきたいことがいくつかある。本書は,当時の記録に基づき,それぞれのセッションで話題提供された全体とその後の議論の一部について,文字記録として紹介することとなっているため,紙数という大きな制限や,その場での雰囲気を文字としては表現しきれないことなどの弊害があったことである。そして,それぞれの発言者の表現や意図を慎重に配慮をしながらもその意味・内容に大きな影響が生じないようにそれぞれの報告者が手を加え,それを再度編集したものである。したがって,その一部である「プラナリー・シンポジウム」や「ダイアローグ・セッション」は,ビデオで現在も入手可能であり,それぞれが必要に応じて補足的に利用されることを期待する次第である(日本ブリーフサイコセラピー学会のホームページhttp://wwwsoc.nii.ac.jp/jabp/)。
 また,議論や話題提供された内容からそれぞれの報告者・編者が判断して,読者のための簡単な小見出しを入れたが,これもあくまでも読者への便宜のためのものであって,実際の会議ではこのような明確な分類がなされたものではないことを付け加えておきたい。そして,それぞれが報告者の目を通して要・不要という判断によって記されているため,実際の会議の記録としては不適切な部分があることをご了承いただきたい。
 加えて,各セッションに協力していただいた講師や司会・進行担当などの所属については,会議当時のままの表記とさせていただいた。したがって,ご協力をしていただいた一部の講師の所属や去就が現在と異なっていることもあるので留意していただきたい。
 さて,会議当日には,多彩なブリーフセラピーの近接領域の海外講師が招聘された。これについては第Ⅰ部第1章を参照していただきたい。
 彼らは,この会議の日程からお気づきのように,その直前にアメリカで起こった「9.11テロ」のため,来日が困難な国際情勢となってしまい,直前まで会議への参加の可否が危ぶまれた状況であった。しかし,そんな状況の中,すべての講師が会議の重要性に深い理解を示してもらえていたこともあって,予定通り参加をしていただけた。同時期に予定されていた他の国際会議の多くが,開催を見合わせたり,会期の変更をするなどをしていたことを考えれば,ほとんど奇跡的に実施が可能となったのが,この「第2回環太平洋ブリーフサイコセラピー会議」である。ただ,残念なことに,海外からの招聘講師と同様の立場で,第1回環太平洋ブリーフサイコセラピー会議で大活躍していただき,本会議でも「被害者支援」のシンポジストをお願いしていた渋沢田鶴子氏が,9.11テロ被害の支援のため,まさに被害者支援のため会議に参加できないこととなった。
 第1回環太平洋ブリーフサイコセラピー会議の記録は,『ブリーフサイコセラピーの発展』として金剛出版から発行されており,本書と比較しながらお読みいただくとよりこの会議の位置づけが明確になるものと思われる。また,「第3回環太平洋ブリーフサイコセラピー会議」がいずれ開催されるかどうかはわからないが,本会議のポリシーとして提示された「立場の異なる心理療法の間で,よりユーザーのニーズを重視する治療者の姿勢」や「臨床科学の発展のためには,実直なディスカッションが有効である」という立場などは,確実に多くのブリーフセラピー近接領域で根を生やし,実を結びはじめているように思われる。これは2年という編集作業の遅れの中でさえ感じたものである以上,今後もますますこの傾向が拡大・発展していくのではないかと思われる。
……(中略)……
また,本書のような記録作成においても,多くのボランタリーな活動によって作り上げられたものである。そして,何より会議当日に参加していただいた多くの参加者のおかげで,実行委員会などでの企画以上の議論の盛り上がりが見られたことに,心から感謝する次第である。そして,これらのすべてに共通していることを考えれば,適切な表現ではないが「それぞれの情熱」によって成立したと表現できるように思われる。ブリーフセラピーの臨床が拡大していることも,この会議が盛会のうちに終結できたことも,それぞれのタスクに対する情熱ゆえの行動と考えれば,そこにもこの会議の断片が見え隠れするのではないかと思われる。なによりこの会議の一部でも何らかの関わりを持っていただいた方々に心よりお礼申し上げることとしたい。
そして,本記録の中に立ち現われていないであろう「それぞれのディスカッションの熱さ」は,本会議を主催した日本ブリーフサイコセラピー学会の年次大会や研修会などで類似したものを味わっていただければと思われるので,ぜひ様子見をしていただくことで,本書に表わしきれなかった部分を感じていただければとお願いしておきたい。

編集担当 吉川 悟