あとがき

 平成7年度に文部省(現文部科学省)によって「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」が開始されてから,今年(平成16年)でちょうど10年目になる。十年一昔などという言葉があるように,10年という歳月を経て,スクールカウンセラーという名称は一般にも広く知られるようになった。当初は,学校教育を専門としない臨床心理士などが学校教育現場へ参入しても摩擦が生じるだけではないかとか,十分な活用などできないのではないかと心配された。しかし,本文にも述べているように,スクールカウンセラーはその「外部性と専門性」という点で高く評価され,わが国の学校教育のなかに,おおむね好評のうちに受け入れられつつある。
 スクールカウンセラーという名称が広く知られるようになったことによって,スクールカウンセラーを職業として選択したいという若い人たちも多くなった。しかし,そのような人たちに接してみると,わが国における現時点でのスクールカウンセラーの仕事の実態については,まだ十分に知られてはいないのだということが分かる。
 一方,スクールカウンセラーの試行が始まったことをきっかけにして,この10年間にスクールカウンセラーに関する多くの研究論文や著作が発表された。スクールカウンセラーの実情や,今後のあるべき姿などが,さまざまに論じられている。筆者(平松)もかつて,これまで教師によって行われてきた学校教育相談の活動が,スクールカウンセラー(学校臨床心理士など)の参入によって,より深化したものになるという観点から論じたことがある(「学校教育相談の新しい試み」)。筆者のこのような観点は現在でも変わらないが,本書は,学校教育相談の側からではなく,改めて学校臨床心理士の立場から,スクールカウンセラーの活動の実際問題について論じたものである。
 スクールカウンセラーに関する多くの論考がなされ,すでに十分な紹介がなされているにもかかわらず,あえてここに本書を上梓するのは,世間の注目を集めるブームとしてのスクールカウンセラー論ではなく,現状としては非常勤(週8時間で年間35週を基本とする)の勤務であるわが国のスクールカウンセラーの活動を,実情に即して論じることによって,そこから今後のスクールカウンセラーのあり方を展望してみたいと思ったからである。
 とくに第Ⅰ部基礎編では,非常勤の勤務である学校臨床心理士が,いかにしてその特色を生かし,教師支援や学校支援を実現するべきか,という点に焦点を当てている。そのなかで,スクールカウンセラーだからといって,学校で児童生徒のカウンセリングをすることだけが仕事なのではなく,学校教育全体を支援しようとしているのだという点を強調している。
 また,第Ⅱ部事例編では,具体的な事例を通じて,学校臨床心理士の理念がどのような形で実現されつつあるのかを示そうとした。学校教育の抱える課題は多く,しかも深刻化してきている。学校不適応の課題としても,単に不登校やいじめ問題ということだけにとどまらず,近年は軽度発達障害ということも大切な視点になりつつある。また,保護者面接だけでなく,児童生徒相互の支援(ピアサポート)なども視野に入ってくることであろう。さらに,学校に生じる緊急事態における緊急支援についてもふれた。
 これらの課題はあまりにも大きく,われわれの試みはほんのわずかであるので,これで十分と言えるものではないが,さらに今後とも実践を通じてスクールカウンセラーのあり方を追求していきたいと思っている。本書が,学校教育臨床に関心を持つ方や,スクールカウンセリングに関心を持つ方々に,なんらかの参考になれば幸いである。
……(後略)

平成16年6月15日   編者 平松清志