「はじめに」より

 人と人との出会いから,すべてが始まります。人は,自分1人だけでは何もできないものです。人と出会って,他人の助けを得て初めて何かが始まるのです。
 私たちが関わっている精神科医療においても,同じことが言えます。自分から診察に来て下さる方もいますし,自分の殻に閉じこもっていた患者さんが家族に促されてやっとの思いで受診し,そこで私たちと出会うこともあります。
 たとえば,私たちが何気なく営んでいる日常生活も,統合失調症になった時には,それは日常の何気ないことではなくなるのです。自分が誰かに非難されているとか殺されるのではないかと感じるような被害妄想が出現し,人との出会いが不安や恐怖に彩られてしまい外に出ることも恐ろしく,他人が信じられなくなってしまう場合があります。そのために自分の殻に閉じこもってしまうことになります。それでも近年は抗精神病薬の発展がめざましく,多くの方は数週間のうちに幻聴や被害妄想が軽減するようになりました。しかし,被害妄想が軽くなってもなかなかすぐには人の中に入っていけない患者さんが多くおられます。そのような方には,少しずつ人に慣れ,街に慣れる練習が必要になります。他の多くの障害でも,リハビリテーションは治療初期から必要であるとよく言われますが,特に精神疾患の場合は病初期に安心できる治療者との出会いがあれば,その後の治療とリハビリテーションは比較的良好に進むものです。このように治療が進み回復期に入りつつある時に,人に慣れ街に慣れる機会を提供するのがデイケアです。街に自分の生活が広がっていけば,さまざまな場面で自分の好みにしたがった選択ができるようになるのです。
 さらにもう一つのデイケアの重要な役割は,再発予防です。症状が治まり,生活が街に広がってゆくと,もう大丈夫と思い服薬を中断してしまう患者さんがしばしばおられます。中断してしばらくは変化がないのですが,数カ月後に再び被害妄想や幻聴が出現する方が70%を超えます。服薬中断から再発に陥らないようサポートするのも,精神科デイケアの重要な役割です。
 このように,再発予防ができて街で暮らせることが基本ですが,さらに「やり甲斐のあることをしたい」「充実感のある生活を送りたい」そんな思いを感じている回復期の患者さんたちが多いのではないでしょうか。デイケアを,そのような思いに応えるための,次の飛躍の拠点としても活用してもらえればよいと思います。就労して自立した生活が送れれば理想的でしょうし,たとえ就労できなくとも,街での生活の送り方を自分で選べるようになれば,それこそが社会人として生活していると言えるのではないでしょうか。
 そんな心の病を持った人々のリハビリテーションにおいて,人と人との関わりが画期的な治療効果をもたらすのが「精神科デイケア」です。

 本書は,精神科デイケアの職員や管理職の方々だけでなく,共同作業所や通所授産施設,地域生活支援センターなどの社会復帰施設で,精神障害者の地域の生活を支えるさまざまな仕事に関わる職員を念頭に置いて書きました。地域でのグループ活動を始める時に,専門家として何を準備するのか,どんな場を作ってゆくのか,そしてグループを進めてゆく時に出会ことが予測されるさまざまな出来事にどう対処するか等々について,クボタクリニックでの経験から学んだことを書かせていただきました。
 さらに地域精神医療・保健・福祉の中で,精神科デイケアがどのような役割と連携を果たしていったらよいのか,私なりの考えを書かせていただきました。私たちの仕事は意識するしないにかかわらず,複数の職員でのチームアプローチになっています。しかし地域での生活支援活動は,互いの場が離れているため,互いの連携を意識的に作っていかないと自分だけの世界の独善に陥る危険があります。何とか,街の中に多職種の人々が多様な機能を持つ場を生み出し,さまざまな場が相互に自由に行き来できる連携を保って行きたいと思います。
 そして,精神科診療所等の地域の医療機関が,外来診療と共にデイケアと訪問看護を3本の柱として活用しながら,民間の地域精神保健センターとして地域に役立つ可能性について夢を語りました。今後の方向として,介護保険が精神障害者に対しても導入されれば,老人介護と同様に,医療のデイケアと福祉の通所サービスに分かれて提供されるようになるかもしれません。今や精神科デイケアは1,200カ所に近づいています。共同作業所と通所授産施設は合わせて2,400カ所になろうとしています。それでもまだまだ地域ケアを求めている多くの患者さんたちには十分ではありません。地域でのグループワークの場が増えればいっそう,医療と福祉の良好な連携が重要になります。
 そして,これだけ広汎に地域での活動が広がっているにも関わらず,デイケアやグループワーク等の活動実践に具体的な指針となる本がまだまだ少ない現状ですので,できるだけ実践に即して解説することを心掛け,具体的な課題から始め,理論的な議論は後半にしました。地域でグループワークを実践しておられる方々に,日常活動の中でお読みいただきたく思います。

 本書を参考にしていただき,日本中にもっと多くの精神科デイケアや社会復帰施設など地域の拠点が生まれ,心の病を持った人々がのびのびと生きて行けるような街作りがさらに進むことを望んでいます。

 なお,現在行政用語としては「デイ・ケア」「ナイト・ケア」「デイ・ナイト・ケア」の表記が使われていますが,本書においては,資料として掲載してあるもの以外は,一般的な表記である「デイケア」「ナイトケア」「デイ・ナイトケア」を使用します。