「監訳者あとがき」より

 本書は,Stephen Palmer教授が編集を担当している短期療法シリーズ(SAGE)の中の1冊であるBrief Cognitive Behaviour Therapyの全訳である。著者のBernie Curwen, Stephen Palmer, Peter Ruddllは,いずれもイギリスで援助専門職として活躍するとともにPalmer教授が主催するストレスマネジメント研究所で認知行動療法の教育訓練を担当しているメンバーである。
イギリスでは心理援助の専門活動が制度として確立しており,臨床心理士をはじめとする専門職が充実した活動を展開している(詳しくは,『専門職としての臨床心理士』(下山晴彦編訳 東京大学出版会)を参照のこと)。私は,2002年にオックスフォードに滞在し,イギリスのメンタルヘルス活動についてのフィールドワークを行った。そこで,臨床心理学が非常に重要な役割を担っていることを目の当たりし,日本の臨床心理学の発展に向けて,イギリスの臨床心理学から学ぶべきことが多くあると感じた。そして,そのようなイギリスの臨床心理学の実践活動の中心になっていたのが,認知行動療法であった。
本書で示されているように認知行動療法は,認知に働きかけることを通してクライエントの行動の変化を促す。効果研究によって認知行動療法は,他の心理療法に比較して有効な介入ができるという結果が実証的に示されている。それに加えて認知行動療法は,社会的行動に焦点を当てることで,コミュニティなどの社会的場面におけるクライエントの問題解決に特に効力を発揮する。日本においてもスクールカウンセリングを始めとしてさまざまな社会的場面で,クライエントの行動変化や問題解決を援助することが臨床心理学に強く求められている。その点で日本においても次第に認知行動療法の必要性が増してきているといえる。
そのようなことを感じていた時にオックスフォードの書店でたまたま本書を見つけた。多くの認知行動療法の書物は,障害ごとの介入法に多くのスペースを割いており,日本の読者には専門的すぎる傾向があると感じていた。それに対して本書は,認知行動療法の基本を,カウンセリングとの関連なども含めて,非常にわかりやすく解説してあり,日本の読者にはとても親しみやすいものであると直観できた。そこで,帰国後に東京大学の私の臨床心理学研究室で本書の輪読会をした。参加した大学院生にはたいへん好評であったので翻訳をすることにした。
……(後略)……

2004年10月 下山晴彦