本書の目的は単純かつ率直である。1971年から1993年までに私が書いた12編の論文を,自殺の危険の高い患者の治療に当たっている幅広い精神保健の専門家を対象として,まとめるというものである。経験的な研究,単独の症例に関する分析,理論に関する論文,精神療法についての考察,多くの心理学的剖検に関する論文が含まれている。他の科学論文の著者と同じく,私もさまざまな論文をまとめて,その成果を融合させて書いてきた。一連の出版物や,人間の自己破壊に関する私の考察を通じて,理論を修正し,さらに洗練し焦点を当てなおしながら,概念に関して細かい点を少しずつ積み重ねてきた。
 これまでに発表してきた論文の内容を融合させて書いたために,本書の各所に私の持論がある程度繰り返される結果になった。読者が煩わしく思ってほしくはないが,私は同じ考え方が繰り返されていることはある意味で当然であると考えている。同じ考えが繰り返し述べられるというのは学習に役立つばかりでなく,より重要なのは,その考えには価値があるので,このようにして強調される意味があるのだと私は信じているからである。
 理論と実践の間には生産的な緊張感が存在するとともに,互いによい影響を及ぼしあうはずだと私は常に感じてきた。生涯にわたる臨床において,事象の理論的な側面について書くことを重視している点に関して私は何の言い訳もしない。というのも,すぐれた理論ほど実際的なものはないと信じているからである。(理論化することの長所は,それがその後,他の人々による実際の臨床でも用いられ続けるかどうかにかかっている。)
 なお,私が新しい言葉を作るのは,現象を明確化することが目的である。(けっして軽薄だとも無意味だとも考えていない。)自殺学(suicidology)の定義とは,自殺に関する知識や自殺予防の実践に関する学問である。精神痛(psychache)とは自殺(そして,自殺者の複雑な心理的特徴)に密接に関連する心理的な痛みが果たしている中心的な役割を強調している。心理学的剖検(psychological autopsy)は,故人の意図が明確でなかったために不審死とされている事例について,正確な死のタイプを明らかにする。意図下的な死(subintentional death)とは,無意識の動機が重要な役割を果たしている死の存在を認めることによって,故人の真意を探ろうとしている。ポストベンション(postvention)は,愛する人の悲惨な死が生じた後に行なわれるケアを指し,とくに遺された人のメンタルヘルスに関心が払われる。
 数年後には,いくつかの章を削除し,また新たな章を付け加えて,本書を改訂したいと考えている。その時までに,自殺という現象の基本的な謎が完全に解明されているとは思わないが,この現象について今よりは理解が深まっているだろうと,ごく楽観的に考えている。

1993年9月  カリフォルニア大学ロサンゼルス校  エドウィン・シュナイドマン