強迫性障害の治療としてはSRI(Serotonin Reuptake Inhibitor;セロトニン再取り込み阻害薬)を中心とする薬物療法と曝露反応妨害法を中心とする行動療法が第一選択の治療法として確立されている。行動療法に関しては,欧米で1960年代に曝露反応妨害法の最初の症例報告がなされて以来,治療効果や効率を高めるためのさまざまな研究がなされてきた。その結果,現在欧米では,比較的短期で期間限定型の外来治療プログラムが主流となっており,それに関する治療マニュアルが多く出版されている。しかし,実際に強迫性障害の患者に対して行動療法を行おうとする場合はそう簡単にうまくいかないことが多い。治療を行う際は,診断や治療法の適応の判断,入院か外来かなど適切な治療環境の設定,具体的な治療行為やどのような言葉を使うかなど治療の細部,など検討しなければならないことが多い。こうした強迫性障害の行動療法の詳細について丁寧に解説している出版物は少ない。
 肥前精神医療センター,九州大学精神科は20数年強迫性障害に対する行動療法の臨床研究を行っている数少ない医療機関のひとつであり,日本で強迫性障害患者に対して行動療法をいかに適用していくかについて模索してきた。その臨床研究を学会や論文あるいは講演などで報告してきたが,医療関係者の多くが行動療法に関して強い興味を示すようになり,行動療法に関しての研修会を開催してほしいという要望が近年多く聞かれるようになった。そこで,肥前精神医療センターでは,2003年と2004年の2回,これから強迫性障害の行動療法を学びたい精神科医,臨床心理士,看護師らを対象とした研修会を3日間の日程で開催した。
 その内容が好評であったため,今回,その研修会をベースにして,強迫性障害の行動療法に関する実践的な本を編集することとした。より理解しやすくなるように図表を多くして,また,できるだけ専門用語を使わずに平易な表現で記述することを試みた。各章は以下のような構成から成っている。
 第1章「行動療法概論」では,強迫性障害の行動療法を行うために必要な基本的な行動療法の知識と技術について概説している。
 第2章「強迫性障害の行動分析と治療の基本」では,強迫性障害患者に対する面接の仕方や問題の評価の仕方,中心的な治療技法である曝露反応妨害法について説明している。
 第3章「強迫性障害の外来治療」では,外来治療を行う際に必要な考え方や技術,さらには治療プログラムについて解説し,また,症例を用いながら実際の外来治療の進め方について説明している。
 第4章「強迫性障害の入院治療」では,入院治療を行う際に必要な環境設定や実際の治療の進め方,看護師とのチーム医療,さらには曝露反応妨害法の適応でない患者の治療についても解説している。
 第5章「強迫性障害の入院治療の看護」では,入院治療における看護師の役割と必要な看護技術を中心に説明している。
 第6章「症例検討」では,第1章から第5章までで述べたことが,実際の治療のなかでどのように用いられているかを具体的な症例を通して説明することを試みている。
 第7章「強迫性障害の行動療法における“動機づけ”」では,治療過程のなかで患者がいかにして治療が進むように動機づけられていくかについて,さらに,治療者自身もいかにして動機づけられていくかについて述べられている。

 本書を読むことで,行動療法に興味をもち,これからやってみようと思う医療関係者がひとりでも多く増えてほしいと願っている。

2005年2月  飯倉康郎