あとがき

 本書は,雑誌『臨床心理学』に2003年第3巻第1号(通巻第13号)から,2004年第4巻第6号(通巻第24号)までの計12回にわたって連載してきたものが骨子となっている。「こころと精神のはざまで」というタイトルに関しては,本文にもあるように,私がこの38年間,心理臨床と精神科臨床のまさにはざまで仕事をしてきたからであり,そのはざまにあって,いろいろ考えたり悩んだり工夫したりしてきたことどもを書いて来たものである。
 本書が世に出るのは,私がこの四半世紀勤めた京都大学を,ちょうど定年で辞めている頃であろう。以前なら,「退官ですね」と言われるところだが,何と,昨平成16年から,独立法人化して,「国立大学法人」という法人になって,もはや「国立大学」ではなくなったので,「官」ではなく,だから「退官」とは言わなくて,退任とか退職というのだそうだ。独立法人に移行する前は,移行すればいろんなことが随分と楽になり,いろいろ自由になるという,いいことずくめの鳴り物入りであったが,何といざ移行してみると,前評判とは大違い,めんどうなことばかりが増えて,かえってとても窮屈な状況になったので,何とも騙された感じが否めない。まさに辞めるのにはちょうどよい頃合いだと思う。
 私は,退任した後この4月から,JR宇治駅近くに「京都ヘルメス研究所」というのを設立して,そちらでもっぱら活動する予定である。研究所そのものは,もうすでに設立した。玄関の真新しい金属プレートに,研究所の名が誇らしげに浮き出ているのを見てほしい。さて,そこで何をするのか,とよく尋ねられるが,「カワンセラーです」と答えている。ますます怪訝な顔をして,それは何をするの? と訊かれる。河川や樹木の汚染防止と生態系保全,環境保全が主たる仕事である。つまり,これまでしてきた一人ひとりのこころを守る仕事は,無論のこととても大切で貴重なことであり,それはそれで継続するが,現在の子どもたちや社会の情勢をみる限り,こころを保全して来た大きなバックグラウンドである自然環境や地球基盤そのものがとても危うくなっていて,とくに,河川や森林樹木のそれはとても酷い状態になっており,早く手をうたないと孫の世代までに「生きられる地球」が存続しうるのかしら,という危惧すら起こってくる昨今である。今考えていることは,近くは子供会,小中学校,青年団,老人クラブなどを訪ねて,地道に川や木との触れ合いを共有する試みを,遠くは,独立法人 水資源機構やユネスコや国連に働きかけて,地球的規模において活動していくことをすら考えているのだ。
 ……(後略)  

平成17年2月23日宇治の草庵にて 著者識