日本の友に贈る言葉

 統合失調症などの重い精神の病から立ち直るという「リカバリー」の考えは,やっとその時を迎えました。いま使うことのできる生物学的治療・行動学的治療のすべてを支持的な環境のなかで動員していけば,リカバリーは気分障害や統合失調症と診断された人びとの75%以上に可能な時代になりました。
 リカバリーとは,家族,友人と一緒に時間を過ごし,仕事をし,楽しんだり,悲しんだり,普通の気持ちをいろいろ体験しながら生活することです。また,薬をのみ,ストレスに対処する具体的な方法を学ぶことによって,症状にコントロールされるのではなく,症状をコントロールするようになることです。
 この本に紹介されている「ビレッジ」では,利用者の一人ひとりがリカバリーを体験しています。人として尊重され,希望を取り戻し,仲間をお手本として,いろいろ挑戦しながら,自分の生活目標に向かって努力を続け,自信をつけ,変わっていくのです。一人ひとりを独自の存在として見る目,問題ばかりでなく,その人独自の力と可能性を見る目こそが,リカバリーを織りあげる重要な糸なのです。
 ビレッジでは「メンバー」と呼ばれる利用者が,スタッフと一緒にリラックスして自分の目標を決め,治療プログラムや活動を決め,自分自身のニーズと好みにあった自分用のリハビリテーション・プログラムを作成しています。メンバーは,住宅,レクリエーション,教育,仕事,ピアサポート(仲間の支援),金銭管理,継続的な治療と支援,家族教育,地域活動などから,複数のサービスを組み合わせ,自分のためのリカバリー計画を立てるのです。
 熱意のこもった支持的環境のなかで,包括的なサービスを忍耐強く,必要な限り継続して提供すれば,精神の病を持つ人も必ず,いまより質の高い生活を楽しむことができるでしょう。
 21世紀の日本は,社会から孤立して長い年月を精神科病院で過ごしてきた患者さんには,別のニーズがあることに気づいています。包括的なサービスを準備して,地域で生活していくことを支援する新しいニーズです。厚生労働省が適切な予算を地域精神保健福祉サービスのために確保すれば,ビレッジのような統合化したプログラムを日本の当事者に用意する仕事が始まるでしょう。しかし,人間に対するサービスは建物とシステムだけでは本当には動き出しません。私は,日本で必要なのは精神科の患者さんに対する根本的な態度の変化だと思います。一般市民ばかりでなく,精神科医,臨床心理士,ソーシャルワーカー,看護師などが,患者さんに対する態度を大きく変えることが必要ではないかと思います。精神の病を持つ人びとを心から尊敬し,これらの人びとはもっと普通の生活をする権利を持っていると考え,本当のパートナーとして治療計画を一緒に立てる努力が大事だと思います。これには時間がかかるでしょうが,個人的な努力,専門職業的な努力,それに伴う経済的な努力は,やがて国全体の生産性をあげる結果となって十分に報われるものと思います。
 いろいろなレベルで住民の意思を代表する議員たち,精神の病を持つ人びとの地域生活に責任を持つ諸専門職団体は,21世紀のためにどの道を選ぶべきか,いまや,大事な岐路に立っているように思われます。人権意識に基づいた,利用者中心の総合的なサービスを提供していこうという決心は,あらゆるレベルの人びとに必要でしょう。このサービスに続く道を選び,前進していけば,精神の病を持つ多くの人びとがリカバリーの機会を保障され,市民生活にフルに参加することができるのです。

ロバート・ポール・リバーマン
カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校医学部精神医学教授
UCLA精神科リハビリテーション・プログラム・ディレクター
アメリカ精神医学会終身会員
および,みなさんの友人として