日本語版へのまえがき

 『A Road to Recovery』が前田ケイ先生のお力で日本語の本になることを,とても嬉しく思っております。
 15年以上もビレッジでリカバリーの仕事をしてきましたが,その間,私は日本から,かなりの訪問客を迎えました。当事者,家族,学生,専門家など,それぞれの方が,日本の精神保健福祉のあり方を変えようと最前線で努力しておられました。2000年には,東京,出雲,京都で,光栄にも講演をさせていただきました。出雲で,目を見張るばかりのご馳走で私の誕生日を祝っていただいたことを,私も家族も忘れることができません。本当にありがとうございました。
 私が『A Road to Recovery』を書いてから,ここ数年の間に,リカバリーは理念とインスピレーションの世界から,政策と実践の世界へと進歩しました。2003年には,大統領の精神保健委員会が報告書を発表し,アメリカの精神保健システム全体がリカバリー基盤へと変えられるべきことを提言し,その目標を達成するための一連の政策が具体的に提案されました。2004年,私が住むカリフォルニア州では,公的な精神保健サービスを改革し,拡大するために,高額所得者に課税するという新しい法律を有権者が成立させました。私たちはこのような動向を非常に歓迎しており,システム全体をリカバリー志向に変革するための取り組みに,積極的に参加しているところです。
 日本にとっても,病院中心の医療を地域中心に移すことや,精神保健福祉サービスをさらに人間的で暖かいものに変えていくために,リカバリーの考え方は役立つと思われます。この本ではたくさんの実例を紹介し,個人がどのような過程でリカバリーを経験していくか,専門家がその過程にどう参与していくかについて述べています。その多くは,私たちが人間として,広く共通に持つ普遍的な経験なので,みなさんにも訴えるところがあるでしょう。しかし,このようなリカバリーの考えを,真に政策に反映し,システムを変えていこうとすれば,それはまさに,その地域社会で,また国で,独自の取り組みが必要でしょう。私がこれまで,日本の人たちから聞いてきた声のなかには,たとえば,もっと社会生活に関わって生活したいという当事者や家族の願い,マスコミが精神病を恐ろしいものとして描くことへの不満などは,私たちにも同じ状況があるのでよく理解できます。しかし,精神科医が病院長として病院の運営にあたっているとか,精神の病を持つ人の行為に誰が責任を負うかという考え方や,精神病を恥 ずかしい病気と思うことなどについては,私たちとはだいぶ違うと思っています。
いろいろな国を旅行すればするほど,私には,人間といっても違うものだという考えと,国は違っても人間はまったく同じだという二つの思いがそれぞれ深まるのを感じます。私のいろいろな話が,遠い国の人びとにも感動を与えたという事実に驚かせられ,嬉しく思うこともあれば,両者の間に存在する距離を思い知らされて,謙虚な気持ちになることもあります。
 私のこの本が,日本でのリカバリーの種蒔きをもっと広げるために役立ちますように。そして,日本にもリカバリー・チャンピオンがいて,みなさんでリカバリーの実りを収穫なさいますことを希望しております。
 どうぞ,私の本を楽しんで下さい!

2005年1月15日  マーク・レーガン