監訳者あとがき

 本書を手にしたのは,2004年の5月,アメリカで開かれた心理・社会的リハビリテーション会議(International Association of Psychosocial Rehabilitation Services)に出席した時でした。展示場にビレッジのコーナーがあり,この著者のレーガン先生がビデオで話をしておられ,リカバリーに関する,とても共感できる内容でした。すぐ,その場で展示されていた『A Road to Recovery』を購入しました。ホテルの自室で読み始めましたが,具体的でわかりやすく,率直に自己開示しながら,理想を熱心に追い求める著者の言葉にぐんぐん惹かれ,一息に終わりまで読んでしまいました。その途中から,もう翻訳を決心していたのです。
 この翻訳を快く許可して下さった,Village Integrated Service AgencyとMental Health Association in Los Angeles Countyに心からお礼を申し上げます。Thank you for your full support.
 ビレッジの働きは,日本でも一部にはよく知られています。リカバリーに関して言えば,日本でも「べてるの家」の人たちのように,全国的に知られているよい活動を展開している当事者たちもいます。しかし,残念なことに,日本の精神保健福祉システムはまだまだ,リカバリー志向からははるかに遠いのです。
 私がこの本に託す願いは,第一に,少数でもがんばっている日本のリカバリー志向の精神保健の専門家をエンパワーしたいということです。いろいろな問題にもかかわらず,アメリカのメンタルヘルスは前進しています。私たちもがんばろう,時代は私たちの味方だ,という気持ちを込めて,この本を送り出したいと思います。
 第二に,これまでリカバリーの道を歩みながら,志なかばで倒れた多くの友,著者の名づけた「リカバリー・チャンピオン」に対する鎮魂として,この本を捧げたいと思います。たとえば,調布のクッキングハウス(作業所)でのSST(対人行動練習)で,いつも熱心に課題を出して練習に励んでいた橋本和良君。保護室に入れられた辛い経験もみんなに話してくれ,作業所にきちんと通いながら,一人暮らしを始めて,お姉さんの結婚する相手と楽しく雑談する練習もしたりして,リカバリーの道を歩んでいたのに,心臓発作で急逝されました。
 全国各地で開かれる「べてるの家」の講演会で,自分の歩んだ道を率直に話され,どんな時に「幻聴さん」が来るかに関する自己研究の成果を伝えて,深い感銘を聴く者に与えていた林園子さん。神戸での2004年世界行動療法・認知療法会議にも参加して,リバーマン先生と明るく話をしていた林さんは,ある日,突然,自宅で倒れて,急逝なさいました。林さんの当事者研究は,同じような苦労を重ねている全国の仲間たちの大きな安心になっています。
 この本に,鳩のキッスの写真をはじめとして,多くの美しい写真を提供して下さった吉田恵君は,高校生の時に発病し,入院,その後,自宅に戻ってから通信制の高校を卒業し,趣味として写真を本格的に勉強していました。納得のいく写真をとるため,何時間もカメラを構えて,絶妙の瞬間を待ち続けていた吉田君。朝焼けの写真をとるために,暗いうちから起きあがって出かけていきましたよね。そればかりか,平和のために活動したいという熱い思いでプラカードを手作りし,市民と一緒にイラク戦争に反対する運動にも参加しておられました。それを支援されたご家族の理解とご努力はいかばかりだったでしょう。残念なことに,楽しみにしていたナイトケア前の食事中に倒れ,急逝されました。
 その一人ひとりの純真で,懸命な,かけがえのない人生に心から哀悼の意を表し,その方がたのリカバリーを支えて下さった関係者に敬意を表するとともに,これからも多くの人とリカバリーの道を共に歩みたいと,心から願っています。
 翻訳は,ルーテル学院大学大学院で同僚の増野肇教授や大学院卒業生にも助けてもらいましたが,すべての原稿に前田が目を通し,文体を統一しましたので,翻訳の責任は前田にあります。著者の読み方を「レーガン」とすることについては,日本女子大学教授,木村真理子先生のご意見に従いました。木村先生は何度もビレッジを訪れ,先生が耳に親しんだ発音だということです。快く,訳者の質問にお返事を下さった木村先生に感謝いたします。
 著者のレーガン先生はわざわざ,日本語版に前書きを送って下さいました。敬愛するアメリカの偉大な友人,リバーマン先生も快く「日本の友に贈る言葉」を書いて下さいました。ビレッジのサラ・フォードさんは,翻訳権等について,いろいろお世話をして下さり,何度もメールを下さいました。これらの方がたの厚い友情に心からお礼を申し上げます。Thank you, Sara, for your friendship.
 翻訳の途中で,クッキングハウスの家族SSTに参加して下さっている当事者のご家族の数人が原稿を読んで下さり,貴重なご意見と感想をいただくことができ,この仕事を完成させるエネルギーをもらいました。金剛出版の石井みゆきさんは,本の内容に深い関心を寄せられ,いつもメールで本質をついた,鋭いなかにも暖かみのある感想を送ってこられたので,一緒に本作りをする楽しみが深められました。石井さんも私と同様,モーリス・ウィークスさんの手記を読んで,目頭が熱くなったとのことです。Thank you, Maurice, for your contribution. みなさん,どうもありがとうございました。

翻訳者を代表して 前田ケイ