あとがき

 本書は私がここ数年の間に書いた論文,エッセイ,書評などを集めたものである。第I部には精神(心理)療法全般にかかわるものを,第Ⅱ部には主として特定の病態にかかわるものを,第Ⅲ部には短いエッセイと書評を入れた。
 書評はここ数年の間にかなり沢山書いたが,ここには土居健郎先生の『方法としての面接』の紹介文と,長年の友人山中康裕さんの『著作集』の書評,それに亡くなられた小此木啓吾先生の最後の著書になった『精神分析のすすめ』の書評の三つを収録した。土居先生には直接教えを受ける機会は得られなかったが,私の学会発表などにおりにふれて励ましの言葉をいただいた。心からありがたく思っている。『方法としての面接』は初版出版以来すでに30年近くにもなる。古典といってよい名著であるが,この紹介文は最近臨床心理学系の雑誌の「臨床家のためのこの一冊」というコーナーに書く機会を与えられて書いたものである。新訂版を読んでよい本であることを再確認し,また私がこの本からどれほど多くを学んできたかをあらためて知った。山中康裕さんは私の中学以来の友人である。今や学問的には仰ぎ見る存在なので,山中先生と言うべきだが,彼も私のことを友人の一人に数えてくれているようなので山中さんと呼ばせてもらうことにする。この『著作集』には,病む人の心の深みに参入する山中さんの不思議ともいうべき能力が実によく示されている。『精神分析のすすめ』の書評は,小此木先生の病が篤くお別れがせまっているかもしれないと思いつつ書いたものである。深津千賀子先生の御配慮で,まだ活字になるまえの私の原稿を令嬢小此木加江先生が父君啓吾先生の枕頭で読んでくださったと後でうかがった。小此木先生に私のメッセージを聞いていただけたことは私にとってありがたいことであった。
 なお,患者・クライエント,治療者・面接者,精神療法・心理療法は,本書に関する限り同義と理解していただいてよい。
 ひるがえって自分の書いたものをみると,おのれの凡庸を痛感せざるをえない。とはいえ私なりの歩みの跡ではあるので,こういう形で世に出していただけることをありがたく思う。校正刷を通読して,繰り返しの多さにわれながら辟易するが,それぞれの論文のまとまり具合もあり,また異なる読者を想定して書いた場合もあるので御容赦いただきたい。再録を許可された学会と出版社に感謝する。
 ……(後略)

平成17年4月17日 成田善弘