推薦の辞

西園昌久 (福岡大学名誉教授,心理社会的精神医学研究所所長)

 本書は,全国の精神科デイケア治療従事5年以上の,いわば中堅の人々を対象とした精神科デイケア課程研修の講義と実習を担当した指導者の皆さんが,実際の研修の際の討論を踏まえて書き下ろされたものです。
 地域ケアの時代が訪れ,精神科医療は病院からの早期退院や,入院なしでの外来やクリニックでの治療が求められるようになりました。精神障害者の症状のみならず,生活のしづらさや社会的不利を克服するのに適切な薬物療法に加えて,必要な心理社会的治療を行い,また家族の助力を得るのに,精神科デイケアの比重はますます大きくなっていくと思われます。他方で,共同作業所,社会生活支援センター,援護寮,グループホーム,共同住居などの社会復帰施設が整備されつつありますが,医療とのネットワーク作りは不可欠です。ネットワークの要,あるいは精神科病院ならびに精神科クリニックのスタッフとその技術の地域への展開の拠点となるのが精神科デイケアと期待されます。
 わが国の精神科デイケアと保健所デイケアは40年ほど前に政策的に導入されました。保健所でデイケアを始めたことが,保健所スタッフの精神障害者理解と精神保健活動への関心向上にどれほど役立ったかはかり知れません。精神科デイケアも,それまでややもすれば症状しか見なかったスタッフたちに,通所してくる“人”としての当事者やその家族を見るような変化を与えたと思われます。デイケアは地域に生活する当事者が全人的課題に対処するのを支援することになることが,このような変化を起こすものと思います。
 その後,診療報酬のうえでも評価され,今日では大規模,小規模の2種類が設けられています。精神科デイケアならびに治療従事者には,その目的に適う知識と技術を修得する責任(アカウンタービリティ)が求められます。精神科デイケアに関する学会以外に,全国にいくつかの精神科デイケアの研究会があるのもそのためです。本書も国の行った精神科デイケア課程研修を基にしたものです。その内容には意気込みが感じられます。「はじめに」と第1講では,安西信雄先生がわが国の精神保健の動向と精神科デイケアの位置づけを行っています。第2講では池淵恵美先生によって,「デイケア治療」の理論と技法とが具体的に述べられています。導入の工夫,経時的評価法によって随時,プログラムの再検討を行うことが奨められています。それはデイケアホスピタリズムを防止するうえからも必要なことです。第3講では辻貴司先生によって,新しいデイケアモデルとして期待される急性期入院治療との連携が論じられています。第4講の「就労支援」は浅井久栄先生によるもので,これまで多くの精神科デイケアが取り組んできた古くて新しい課題です。第5講の「ACT」,第6講「クリニックデイケア」は,伊藤順一郎先生,窪田彰先生が,それぞれ地域ケアの質の向上を考える時欠かせない問題について述べられたものです。さらに第7講で「デイケア症例の検討」,第8講「討論」,そして第9講「補足」へと内容は展開しています。
 本書は,徹底的に現場の問題に向き合った,そして近未来指向の「精神科デイケア実践ガイド」の名にふさわしいものです。きっと精神科デイケアに関わる人々の座右の書になると期待し,推薦します。